The story of "LIFE"

第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」

第 14 話
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ヱイユは初対面のアンバスに話しかけながら、自分のことを恐れはしないかと気を遣った。
アンバスはやや動揺して慌てた様子だが、話は分かったようだ。

「あなたは、もしかして・・・!?」

魔法剣士のヤエも、ルアーズもサザナイアもヱイユを知っていたように、旅人だけでなく町や村に住んでいる者でも、灰色の竜が大空を横切って行くのを見て、「闘神ヱイユ」「灰竜ヱイユ」と聞き伝えて知っていることがあった。

これには答えず、ヱイユは魔法の知識がありそうなアンバスに、LIFEを知っているかと尋ねた。

「文献の中で、“LIFE”という記述を目にしたことはありますけど・・・。」
「そうか。
古来、“LIFE”は魔法を用いる者が根本とする法であって、万象の由来を明かした唯一の哲学だった。
『グルガの封印』が行われた中世以後、一人歩きし出した魔法技術は、素質と発動方法させ揃えば誰にでも使える力とされた。
しかし今日の誤りは全て、人々が“LIFE”を忘れ去ったことに端を発している。」

気の弱いアンバスは一瞬、身震いしてしまった。

「その“LIFE”を、もう一度皆に伝えようとされている方(かた)がおられる。
シェブロン博士という方だ。」

初めて聞いた名前に、まだ成年に達しない彼は当惑してしまった。

「俺はシェブロン博士の弟子。
名前はヱイユ。
普通の人間さ。」

黙って頷くアンバスに、ヱイユは笑みを見せた。

「ルアーズさんとは、半年後に?」
「はい。
彼女をご存知なのですか。」
「LIFEという一行は、修行しながら各国が抱える問題に対して行動を続けているんだ。
ルアーズさんとはリザブーグで知り合った。
彼女には、王国の内乱による弾圧から逃れて、一足先にイデーリア大陸へ向かってもらっている。」

手紙の封を切ったアンバスは、見慣れたルアーズの字を読み、ようやく事態が飲み込めてきたらしい。

「サザナイアにも、お会いになりましたか。」
「ああ。
ついさっきのことだが、6日後にフスカ港で君を待つと言っていたよ。」
「6日後・・・。」
「彼女にも悪いことをした。
たまの帰省中だったろうに。」
「分かりました。
フスカへ向かいます。」
「すまないな。
知っての通り、戦乱はイデーリア大陸だけで起こっていることではない。
俺は当分、レボーヌ=ソォラに入って事態の収拾に努める。
リザブーグの動向も含めて、マーゼリア大陸のことは任せてくれ。」

受け答えが慎重なのは学者肌だからであろう。
ヱイユはアンバスにも、元々の仲間や新しい仲間とともに、世界が劇的に変わっていく様相(すがた)を目の当たりにできるからと励まして、この半島南端にあるミルゼオ領を後にした。

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