第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」
龍王ゲルエンジ・ニルはヱイユを覚えていた。
子供の頃は歯牙にもかけなかったが、今眼前に挑戦を受けてみると、よもやという身の危険を感じなくもない。
海から立ち昇る幾筋もの柱は、水によるものか、空気の渦によるものか。
「竜雨(りゅうう)」と呼ばれる激しい雨が水面を叩き、ヱイユの衣服にも突き刺さるように降り注いだ。
ガードしながら戦うわけにもいかないので、ロニネを張った。
「こういう天候は、俺にとっても戦いやすいということを教えてやろう。」
稲妻が迸って海へ落ちた。
一瞬の閃光に包まれて、いかにヱイユが小さいか、龍王が大きいかが見て取れた。
「なんだ、耄碌(もうろく)したのか?
俺を相手に、大層なお出迎えじゃないか。」
『あれから12年、闘神となったようだな。
我(われ)が敗れればお前の力に、お前が敗れれば、今度こそ我が餌食となれ。』
龍王の爪弾きでヱイユのロニネは掻き消されてしまった。
爪からのトゥウィフであることは明らかだ。
彼はタフツァと二人で城塞テビマワを攻めた時と同様、アンチ・トゥウィフのバリアを張り、その内側にロニネを張り直した。
『雷と水は奴に効かないだろう。
風も操るようだが、効かなくはない。』
灰竜アーダを召喚したヱイユは、自分と同じ二重のバリアをかけてやった。
アーダは一気に高くまで飛び上がり、ヱイユの合図を待っているようだ。
『回転しろ!
そして垂直に狙え!!』
二人の間にはテレパシーでも通じているのだろうか。
ヱイユは龍王の揚力を抑え込むようにゾーをかけ、これを取り巻く強力な竜巻を呼び起こして水平方向の移動を封じた。
更に上からと下から、空気圧をかけた。
ゲルエンジ・ニルは翼を収めてじっとこらえたが、身動きが全くとれない。
そこへ、真上からアーダが突っ込んだのである。
ヱイユはアーダにもゾーをかけて落下を加速させたのみならず、一般に魔法剣などで武器に魔法を宿らせるのと同じ方法で、アーダのバリアの外側に、大地の力を、鉱石の固さを付与していた。
龍王もロニネを張っていたが簡単に破れてしまい、本体に大型の隕石が直撃したかのような、致命的なダメージとなった。