第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」
場面は断崖の孤島ルング=ダ=エフサから、再びマーゼリア大陸へ。
魔法使いファラと武闘家ルアーズがフスカ港に着いた頃、闘神ヱイユは「月狼の祠」のある山を越え、ディセンドの市を越えて、レボーヌ=ソォラ南方、山間に広がる「ビオム村」へと降り立った。
ここは、南北へ往来する旅人が季節を問わず訪れ、荷車をつけた商人たちの馬車は一日中、物資を運んでは次の町を目指していく。
ミルゼオ国を中心とした「陸の交易ルート」の要衝地であり、西側へ下る道はコダーヴ市を経てメレナティレへと通じ、山を越えて南東へ下ればフスカ港の海を望むことができる。
村では昼食を終えて出歩き始める人々の姿が見られ、学校もあるが、この日は休日だった。
ヱイユは親しげに、道行く少年に声をかけた。
「やあ君、サザナイアさんは、この辺りに住んでいるかな?」
「にいちゃん、見かけないね。
サザ姉の知り合いか。」
「ああ。
手紙を預かっているんだ。
彼女の旅の仲間からさ。」
「よし、案内してやるよっ。」
子供が駆けていくので、ヱイユも後を追った。
山の斜面に近い、質素な家は、馬や山羊を飼って暮らしている様子で、近づくと犬が吠えた。
「にいちゃん、ちょっと待ってな!」
ヱイユは敷地に踏み入らず、外で待った。
ほどなく少年に連れられて、エプロン姿の女性が姿を現す。
実家に帰った時には親孝行を心掛け、家族の食事の準備と片付けを終えたばかりの、女剣士サザナイアである。
ソマやフィヲ、ルアーズなどと比べても背が高く、タフツァやヱイユほどもある。
髪を高く結いて、額の汗を拭う様子が美しい。
この時、帯剣していなかったが、どこから敵が現れても村人には指一本触れさせないという闘志が発せられていた。