The story of "LIFE"

第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」

第 03 話
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陽の光は見えないものの、辺りはだいぶ明るくなってきた。
岩場の陰に火を焚いて休んでいたシェブロンは、立ったまま眠りかかっているノイを見つけた。

「悪いことをしたな・・・。
追っ手があるわけでもない。
これからは彼にも体を休める日々にしてやらなければ。」

博士が起きてきたことに気付いたノイは、頭を振って眠気を覚まそうとしている。

「申し訳ございません、こんなに殺生してしまうとは・・・。」
「魔法さえ使えたらな・・・。
自然本来の姿だ。
弱肉強食と言うけれど、コウモリを食べることはできないだろう。
他に生活できる場所があれば、移動しようじゃないか。」
「はい。
食物を、捕ってまいります。
鳥はお召し上がりになりますか?」
「君は筋力が必要だ。
時には肉もいただくとよい。
わたしは、できるだけ食用植物を探すようにするよ。」

野生動物に何を言っても“LIFE”に目覚めるということはない。
「畜生界」に生き、食うか食われるか、そして死んでいく運命(さだめ)である。
シェブロン博士といえど、ここでは自然界の掟、「畜生界」の掟に支配されるならば、弱肉強食というライフサイクルの一部となってもよかったのだ。

しかし彼は、人間として生き、人間として死んでいくことを選びたい。

ノイは体を鍛え、人々のために剣を振るって戦うが、シェブロン自身は強靭な肉体を得たところで、その生命の代価に対しては無駄を払ってしまうだろう。

また彼は市場経済の中にいる時は、自ら殺生することなく食事のために供せられ運ばれた食肉を拒むことはしない。
なぜなら、自分のために与えられたものを、むざむざと捨てるのではなく、そこから力をもらって、その力で多くの人のため、全ての“生命”のために働かなくてはならない、そう考えるからである。

「では、すぐにでも・・・。」
「今度は君が休む番だ。
天然の非魔法場とは、・・・こんな環境は特異かもしれない。
しかし、ここではわたしが身につけてきた魔法の力は役に立たず、外敵から身を守るにしても、君が磨いてきた剣の腕が大いに役立った。
夜通しの護衛をありがとう!
焚き火の場所を少し変えてもいい、ゆっくり休みたまえ。」

ノイは博士が活動している間に休むなど、護衛騎士として情けなく思ったが、この島で彼に与えられた新しい使命、つまり農業や狩猟、漁業によって生産し、孤島生活を全うするという目的に、改めて念を押されたようで、休養を取る気になった。

「短い時間で、よく休み、すぐに働きます。」
「体が大事だよ。
長い流刑になるかもしれない。
長期戦といこうじゃないか。
昨日は夜を徹したんだ、疲れに応じて、陽が傾くまで休んでいても構わないよ。」

こう言って穏やかな微笑を浮かべたシェブロンは、自分の杖を手に、夜明けの日の光がさしてきた方角へ、丈の長い草をかき分けながら行ってしまった。

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