第 06 章「使命」
第 01 節「断崖と絶壁」
明かりはランプの火だけという闇の中、ノイは自らの上衣を、博士を守るための粗末なテント代わりにして、耳だけを頼りに敵の接近を待った。
飛来して頭上をかすめていくコウモリたちの動きは素早く、かといってこちらから高いところへ攻めることもできない。
目を瞑(つぶ)り、両手に武器を構え、毎夜こうしてカウンター攻撃の修行を積むのだと腹をくくった。
まだ夜明けには遠い真っ暗闇の中、静かになったと思えば、一帯は叩き落とされたコウモリだらけになっていた。
ここからは睡魔との戦いである。
ひとたび眠りに落ちれば、コウモリの生き残りに襲われ、朝を迎えられなくなるかもしれない。
博士のことは自分が守るのだから、自分がもし、死ぬようなことになれば、騎士としての誓いが果たせなくなる。
片手には松明(たいまつ)を持つのがいい。
そう考えて歩き回ったものの、付近は背丈の長い草ばかりで、樹木がなく、木の枝というのは望めなかった。
博士が休んでいる洞窟の岩場の方で物音がした。
自分が困っていたことを見通されたように、シェブロンが起きてきてこう言った。
「わたしの杖を使うといい。
ここでは魔法が使えないけれども、杖に炎を灯すことはできる。
燃えたりしないから、ランプの炎をつけてみてくれ。」
博士も人間であるから、便所に行きたくなって起きたらしい。
点火した杖を持ってみると、メラメラと杖のまわりで炎が揺らめいており、同じくらいの木が実際に燃焼しているのとは異なる、不思議な感じがした。
魔法の発動ができないだけで、杖のような魔法アイテムはその効力を保持できているらしい。
裏の方から戻ったシェブロン博士が、幾度となく詠唱と発動を試みた感想を述べる。
「思うに、魔法が起こらないのではなく、世界中の魔法エネルギーがここへと集まり、母なる星『アズ・ライマ』へ還っていく地点のようだ。
つまり、今わたしが起こそうとした魔法は、現象が起こる前に、エネルギーとして島から星へ、吸入されているらしい・・・。」
「そうでしたか・・・!
博士の研究のお手伝いができるのでしたら、わたくしはどこへでもお供いたします。
どうかまだごゆっくりとお休みください。」
シェブロンは、過酷な条件にも価値を見出して戦えるノイの存在を頼もしく思うとともに、このノイが幸せな人生を生きられなければ、LIFEは何も意味がない、という思いを新たにして、頭上に広がる星空を突き抜けた、大宇宙の尊厳性と、自らの生命とを交流させる“祈り”を捧げ、再び床に就いた。