The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 03 節「羅針盤」

第 16 話
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フスカの町へ帰る道は、ザンダもドガァに乗らず、一緒に歩くことにした。
遠くリザブーグの方へと傾く日の光は暖かで、山々を、海を、黄色く染めていた。

「魔法の学者になるつもりだったタフツァさんは、シェブロン先生に入門するまで、全然魔法が使えなかったんだ。
最初なんて火も起こせないものだから、蝋燭(ろうそく)の火を燃え上がらせたりして、魔力も弱かった。
それが、先生に言われる通り、文字や魔法陣を描き続けて、どんどん覚えていったし、実戦では前に出る努力をしていた。」
「ぼくも、先生に力を引き出してもらったから、よく分かるよ。
“LIFE”って、一人の人が持っている可能性を、生命に具(そな)わっている力を、存分に引き出すことなのかもしれないね・・・。」

しばらく、どちらからも話が出ずに歩き続けた。

「ねえファラ君!
おねえちゃんのこと、好きかい?」

急な質問である。
しかしザンダはまだ11歳になる年頃だから、何の思惑(おもわく)もなく、気になっていることを聞いてみたのだ。
その表情は意外なくらいに真面目で、からかうような調子がなかった。

「フィヲさん、知り合って間もないのに・・・。
今まで、あんなに親しくしてくれた人は、いないから・・・。」

はっきりした答えにはなっていなかったが、ザンダは満足そうだった。
自分のことのようにうれしいようでもある。

「今日、案内してもらったのも、これからパーティを組んで戦っていくことになるし、みんなのこと、よく知りたくって、まずはザンダ君と話そうと思ったんだ。
フィヲさんとも、よくお話ししなくちゃ・・・。」
「おお、遠慮することないよ。
二人の仲が悪かったら、おれもみんなもやりづらいじゃん!」

ドガァが少し速度を速めてファラの前に半身ほど出、子ライオンがじゃれているように、振り返って見せた。
鬣(たてがみ)も立派だが、瞳の美しいライオンだ。

「おねえちゃん、使える魔法文字は少ないんだよ。
『クネネフ』と『ドファー』かな。
だけどね、戦闘に立たせると分かるよ。
制御文字の使い方が、とっても上手なんだ。
それも、本人は無意識だって!」

ザンダはフィヲのことが自慢らしい。
それはヴェサもそうだったし、LIFEの仲間は皆、そう思っている。

「危険な目には遭わせない。
ぼくがもし一人しか守れないとしたら、必ず彼女を守るって、君に約束するから。」
「あははっ、ファラ君はそうでなきゃね。
・・・だけど、どうだろう、実際に守られるのは、おねえちゃんじゃなくて、ファラ君のほうかもしれないよ!」

ファラにとって、この言葉は意味深長である。
一緒に育ったザンダだからよく知っているのだ。
魔法使いフィヲが持つ、他の誰にもない、不思議な力を・・・。

まだ暗くならない夕焼けの町、仕事や買い物から帰る人々で賑わう3階建て宿前の広場で、二人を待っていたフィヲが手を振って、こちらへ迎えにきてくれた。

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