The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 03 節「羅針盤」

第 09 話
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フスカ港には午後一番でワイエン列島へ向けて発つ船が一隻、停泊していた。

水夫たちは午前11時45分に入港する船を待って、最後の荷物を積み下ろしているところだった。

ミルゼオ国とワイエン国を行き来する船は「メビカ船団」というギルドの所有であり、ワイエン列島から西側の国々との貿易を支配している。

彼らは対立する東側の「ウズダク海軍」と停戦状態にあり、大セト覇国がこれと通じているため、ワイエン国の民衆は、二大陸の覇権争いに直接的な影響を受けながら戦火に怯えてきたのである。

港は夕方まで、何度も船の出入りがある。
入港した船の水夫たちは、次の船が来る前にドック(船渠)を片付けておかなければならない。

港で働く男たちがあとひと仕事終えれば昼食というこの時間、町では食事の支度が進められていた。

フィヲとザンダは、滞在中の3階建て宿の隣にある食堂で、野菜をきざんだり水を運ぶなどの手伝いをした。
ゆうべヱイユの話を聞いて、将来に希望を持てるようになったフィヲが、宿の経営者からもらってきた仕事である。

100人ほど入れる中程度のホールだが、山側の村落から稼ぎに来ている水夫など、昼に家まで帰れない者たちが食事できるようになっている。

今年で喜寿(77歳)を迎えた老婆ヴェサには、ここのところ心配をかけてしまったので、フィヲがあとで呼びにくるからと言って休んでもらった。

もうすぐファラが来るのである。
今回、二つに分かれてパーティを組む前、何度か言葉を交わしただけの間柄だったが、これからは力を合わせてタフツァやソマ、そしてシェブロン博士に代わって、まずは故国ロマアヤの民を助けるため、旅に出るのだ。

ザンダが両手にバケツの水を持って帰ってきた。

「ふう~・・・。
共用井戸、もっと作ったらいいのにねえ。」
「少し軽くして持ったらいいじゃないの。
あと何回くらい?」
「あ!
『ゾー』を使えって!?
それはいい考えだ!!」

少年が空(から)のバケツを持って飛び出して行こうとしたので、フィヲは付け加えた。

「あんまり横着すると、こぼすからねっ!」

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