The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 03 節「羅針盤」

第 08 話
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船室は一人分の寝具しかなかったので、ルアーズはさっきファラの寝床がなくてわるいことをしたと、今度は床で毛布にくるまって休んでいた。

ファラは好意に感謝しつつ、寝台に横たわって、眠りに落ちるまでの間、ボルフマンや黒いローブの男たちのことを考えた。

『山の祠を中心とする、巨大な六芒星・・・。
次に赤い満月が祠に力を注ぐのは何百年も先のことかもしれないけど、それだけ世界各地に危険な術士たちがいて、LIFEに敵対し、人々を混乱と恐怖に陥れようと狙っているなんて・・・。』

早春の午前4時はまだ深い暁闇(ぎょうあん)に沈んでいる。
少年は寝返りをうちながら、今まで旅してきた国々のこと、これから旅する世界のことを思った。

部屋の壁には航海図が貼られている。

ちょうど地図の中心付近に位置する「祠」を、フスカ港から北西の山中に見て、陸の上で六角形がとれる地点を探ってみたところ、各頂点は幾つもの国に亘(わた)っており、恐ろしく巨大な方陣になることが想像された。

星が楕円体であることから、地図上では正六角形ではなく、やや横長になるだろう。
ここに描かれていない外海や、未開拓の北極と南極を平面に表すのは難しい。

にもかかわらず、半球ほどもある六芒星の方陣が古くから用いられてきたというのは、人智を超えた魔性の発念であるかのように感じられた。

『正確に描かれた六芒星なら、その一箇所でも使わせないことで、負の方陣の発動を阻止することができる。
つまり、実際に使われた過去の事例では、全世界に亘る、独立した国々において、妨害を受けずに呪術の行使が可能だったということか・・・。』

では、各国の政府や王政や自治の裏側で、古来、燻(くすぶ)り続けてきた不安定要素、危険因子を、武力などで制圧してしまったなら、世界の平和は訪れるのだろうか。

否!
どのような人間であれ、この世に生まれてきたことの意味を、踏み躙(にじ)られてきた権限を、正しい方法で取り戻さなければならない。

その正しい方法こそ“LIFE”、――万人の、“生命の尊厳性への信仰”に他ならないのである。

縺(もつ)れた糸が解(ほぐ)れるように、ファラの思索の結論は、彼に心地よい休息をもたらした。

夜明けに先立ち、船上では水夫たちが帆を広げ、錨を上げる準備に取り掛かっていた。

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