The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 03 節「羅針盤」

第 02 話
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ファラが近くにいた水兵に、防寒着がないので防具でもないかと尋ねると、彼らが着用しているのと同じ、鋼のフルメイルを貸してくれると言った。

部屋に戻ればルアーズがいて安心感があるものの、もしも休んでいる所を襲われでもしたら、とても太刀打ちできない人数だ。
彼は他の乗客たちから、それほどの悪意と害意を感じ取っていたのである。

倉庫で全身鎧を着用すると、ひと気の少ない船の後方へ回った。
本当に彼に用事があるならば、誰か来るに違いない。

真っ暗な海に見入ったふりをして欄干にもたれていると、右舷から足音が聞こえてきた。
城下町での特訓の合間にたびたびすれ違い、闘技場では容赦なく払い除(の)けた、魔剣士ボルフマンが鎧を軋ませながら近づいてくるのが分かった。

「おや、鎧を着ているとは珍しいな。」

振り向いたファラは、軽く挨拶をした。
あまり驚いた表情を見せてしまうと、引けをとることになる。

「ボルフマンさん。
そういえば、そのフルフェイスを取った所は見たことがありませんでしたね。
ぼくより倍くらい生きておられるのではないですか。」
「察しがいいな。
40のやや手前という年だ。
・・・船で、どこへ向かう?」

冷たい夜風に吹かれながら、ファラは相手を待たせるように、船の後方をぼんやりと見るようにした。

「多くの人に迷惑をかけてしまうので、明言は控えさせてください。
“LIFE”の旅であり、修行の旅です。」

どうもこの魔剣士は、“LIFE”という言葉に嫉妬心を抱いているようだ。
敏感な少年の心には、それが横柄さと分かる牽制的な態度で1歩、2歩、近付いてきた。

何かされてもおかしくない。
戦闘中であれば、攻撃を受けるよりも早く、こちらから一撃を繰り出すべきタイミングである。

今は警戒して距離を取ることも身構えることも、相手の優越感を満足させるだけの結果になるだろう。

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