第 05 章「宿命」
第 03 節「羅針盤」
中立自由市国ミルゼオの巡回貿易船は、西へと沈む太陽がまだ水平線に隠れないうちに錨を下ろし、海上に停泊した。
ここはマーゼリア大陸の南海沖、ミルゼオ国の領海にあり、港から港へ、夜をまたいで航行する便や、ワイエン列島付近の海が荒れているような場合にも使われる。
昼過ぎにリザブーグ王国ミナリィ港から夜行便に乗り込んだファラとルアーズも、海上で朝まで過ごさなければならなかった。
乗員はミルゼオ国の水夫たちと商人が大半であるが、旅人も定員までは利用することができる。
「中立」で世界の貿易を治める同国は、国籍や民族の信条などによって他国民の乗船を拒むことはしない。
そのせいか、この日、さほど多くない乗客の顔ぶれは、なぜか異様なものだった。
ファラは、サウスウエストタウンの闘技場で戦ったボルフマンという男が同じ船の上にいるのを見つけて気味悪く思った。
朝、急いで城下町を発っただけに、後から追われていたのだとすれば奇怪である。
また、ファラとルアーズにとって初めての遭遇となる、黒いローブを着た術士が6人、同乗していた。
やがて深い闇が海上を完全に包んでしまった。
月も見えない曇り空で、船の上に灯された明かりだけがたよりである。
南極からの冷たい風が、帆をたたんだマストを吹いて揺らしていた。
ただの思い過ごしならばいいが、デッキで交わる視線と視線が、どれも自分の方に向けられているような気がして、ファラは得体の知れない危険と戦慄を覚えていた。
寒いので先に船室で休んでいるルアーズを、巻き込んでよいものかどうか。
武装した乗員が所々に配備されているのは心強い。
しかし彼ら中立国の警備兵がどこまで守ってくれるだろう。