第 05 章「宿命」
第 02 節「“LIFE”を継ぐ者」
入口辺りで聞き耳を立てていたライオンのドガァが起き上がり、立って話しているヱイユの横に座った。
彼らはそれほど慣れた間柄ではなかったが、ヱイユがドガァの鬣(たてがみ)を撫(な)でた。
「これから旅に出てもらうことになる。
ファラたちはメレナティレの秘密を知り、王国から排除対象にされてしまった。
ここに長くいれば、どれほど追っ手が来るか分からない。
行き先は、東の大陸イデーリア、旧ロマアヤ公国。」
「あたしが博士に入門したのはそこでのことだ。
ヱイユを助けたのがきっかけで、今の充実した老年期を迎えられようとは、思いもよらなかった。
フィヲの生まれ故郷もロマアヤだよ。」
この少女にとって、幾度となく聞かされていた国の名前である。
そしてヱイユがザンダの目を見て言った。
「ずっと孤児だと思ってきたんだろうが、本当は有縁の人々がまだ生きている。
大セト覇国に破られたロマアヤの民。
イデーリア大陸の南西まで落ちて、復興の機を窺(うかが)っている。
盟友であるシェブロン博士に託されて、心身ともに育つまで待たれていた。」
「ロマアヤ・・・。
懐かしい名前!
そうか、おれはそこに行かなくちゃならないんだ・・・!!」
「リザブーグで、ルアーズという女性の格闘家がファラに同行してきている。
彼女にも旅の仲間があり、後から2人、加勢してくれるだろう。
それまでの間、少し心細いかもしれないが、現地の攻防戦に加わり、敵国の中にも味方を作るはたらきをしておいてほしい。」
師と兄姉弟子への留難(るなん)、今こそ自分たち弟子が立つ時だという自覚、そして東方の国々へとつながる使命。
もはやザンダとフィヲには、悲嘆も迷蒙(めいもう)もなかった。
目の前に開けてきた道は、遥かなる故郷と守るべき人々に通じており、敬愛する師シェブロンが歩いてきた道の、更に先まで広がるフロンティアであり、正(まさ)しく“LIFE”によって潤していくべき荒野、未来の楽園に他ならない。
瞳の中に希望の光を取り戻した少年と少女の笑顔を見て、ヱイユはここでの役目も終え、もうすぐ春が訪れようとしている港の夜空へ、翼を広げて高く舞い上がった。