第 05 章「宿命」
第 02 節「“LIFE”を継ぐ者」
「LIFEとシェブロン博士を目の仇のように迫害したリザブーグ王国でさえ、近頃は多くの騎士がノイさんを信頼して集まり、LIFEの騎士団を結成するまでになりました。
彼らは、ノイさんを通してシェブロン博士を知ったのです。
また遡(さかのぼ)って考えれば、これは全て、博士やファラのご両親や、ノイさんトーハさんたちが、味方を作ろう、人を育てようと奔走されてきた結果なのです。」
ここで彼は、最も重要な内容を話すにあたって、若い二人にショックを与えぬよう、言葉を探しながら続けた。
「・・・フィヲ、ザンダ。
よく聞いてほしい。
人を育て、正しい民意を芽生えさせると言っても、幾つもの世代を経て、途方もない労力を必要とするんだ。
博士の指揮の元、確かにリザブーグの城下町には“LIFE”を志す騎士たちが育ってきてはいる。
だが、未だ育ちきらない民衆を、権力が潰しにかかっているんだ・・・。」
一瞬、フィヲの表情が曇った。
勘のいいザンダは、悪への怒りを顔に出した。
「古来、正しい人間であるほど、当世は反発を受け、軽視・蔑視され、時に弾圧を受けてきた。
そして死に臨んでも揺るがない本物の意思を目の当たりにする時、人々はようやく、彼(か)の人の偉大さ、正しさを理解するんだ。」
16歳の少女にとっては、最も心苦しい話かもしれない。
ザンダには難しすぎる話であり、どんな反応をすればいいのか、どこに怒りを向ければいいのか戸惑ってしまった。
「博士の偉大さ、“LIFE”の正しさは、俺たちが一番よく知っている。
だが世界中の人たちはどうだ?
偏見を持っている者もいれば、嘲笑う者もいる。
知ろうともしない者がいる。
民衆っていうのは、最初から偉大なんじゃない。
民衆が持つ善のエネルギーを信じ続けて、苦心して引き出し、励ましを送り、正しい方向へと向けさせて、目覚めさせるまで闘い続ける存在、・・・民衆と一体の、偉大な指導者が必要なんだ。」
二人とも、あまりにも悲壮な話だったので、どこまで分かってのことか、それでも涙を浮かべて聞いていた。
「俺たちに、“LIFE”という人生を教えてくれた師、シェブロン先生は、このことを身をもって世界中の人に教えるために、――“生命の尊厳性への信仰”という究極を教えるために、横暴な権力の魔性に反対して、断崖の孤島ルング=ダ=エフサへ流罪になられた・・・。」
まだ大人になりきらないフィヲも、ザンダも、全存在を揺るがされるような衝撃を受けて、茫然自失したように、声もなくはらはらと泣き出した。