第 05 章「宿命」
第 02 節「“LIFE”を継ぐ者」
老婆ヴェサも、LIFE一行の危機であり正念場でもあるこの時に際しては、リザブーグ王国サウスイーストタウンのアイディールの宿へ手紙を書くことしかできなかった。
元よりそれほど器用さを持ち合わせない。
食事も摂れずに床から出てこないフィヲを心配し、喜びそうな食物を調達してやるなど町へ降りて行くこともあったが、大半は部屋で過ごした。
黒いローブを着せられた後遺症でまだ魔法の発動に抵抗感のあるザンダは、初めて直面する一行の難局の中、無力を感じずにはいられなかった。
だがフィヲが食べない分も彼に回ってきたので、徐々に体力は回復しつつある。
ドガァと一緒に周辺や山へ出かけて行って、目にしたものや復調具合をフィヲとヴェサに話すなどしていた。
そんな数日の後、ヱイユが部屋を訪れたのである。
始め、扉を開けて入った時にはザンダとドガァがおらず、ヴェサは窓の外を眺めて座っていた。
聴きなれない男の靴音に怯えたフィヲが、声を上げて泣き出した。
「おや・・・。
よくここが分かったね。」
ヱイユは7歳の時にシェブロン博士に保護されLIFEに加わったが、リザブーグ王宮の崩壊とともに一行も散り散りとなって、彼はその後、長い放浪の修行生活を送ることになった。
灰色の竜アーダと出会ったのも当時である。
子供の頃から尋常でない戦闘力を有していた彼は、成長に随(したが)って、土地土地で神格化されているような、強大な魔力を持つ魔獣などに戦闘を挑んで、勝つこともあれば負けることもあった。
ある時、自由市国ミルゼオで負傷して倒れていたところを、老婆ヴェサに助けられた。
今のザンダと同じ10歳だった。
ヴェサはヱイユに治療を施し、その魔力と回復力に驚きながら、これは本当に人間の子かと疑った。
老年期を迎え、さて若い頃から磨いてきた魔法を、一体何に使うべきかと考えている時でもあった。
その彼女に、まだ少年のヱイユが、自分にはシェブロン博士という恩人がいること、彼が集めたLIFEという一行があること、彼らを護れるように強くなりたいということ、東の大陸のロマアヤという所に一行が滞在しているから行ってみるといいなどと語ったため、不思議な縁を感じて渡航することを決めた。
同年、ヴェサは自分よりも若いシェブロンに入門し、3歳の孤児フィヲと出会ったのである。