第 05 章「宿命」
第 02 節「“LIFE”を継ぐ者」
今朝方、サウスウエストタウンのゲートでルアーズからの手紙を預かったヱイユは、王国内での役割をすっかり終えたので、彼の化身である灰色の竜の姿となり、間もなくフスカの港へ降り立とうとしていた。
機械による管理網を張り巡らして国民や旅人までも取り締まるリザブーグ王国だったが、大空を舞う鳥たちや、灰竜アーダの自由までも奪うことはできなかった。
実際、ヱイユは王国のIDなど持たずに今回も目的を遂げてきたのである。
幼少の頃、血の気が多くて周囲を心配させた彼も、今では冷静さを兼ね具えた。
だが、この時の彼は、マーゼリア大陸3国の運命と、師であるシェブロン博士の流刑による「限りある生命と試練の闘争」を背負って、一刻も早く難局を打開しなければと、少なからず焦りを感じていた。
北東へ進むにつれて雲は引いていき、温かな陽光が両翼を照らしてくれた。
フスカの港町よりも少し手前で大地を踏みしめた彼は、――もし人に見られたとしても違和感を持たせないほど、自然に姿形が打ち解けていく様子をして元に戻った。
隣国では、国王の弟が王位を簒奪(さんだつ)し、急速に軍備を進めようとしているのに、自由市国ミルゼオはなんとのどかなことか。
もしシェブロン一行がリザブーグ城下で滞在したように、ここにも長く滞在することができたなら、暴君の軍事行動に歯止めをかけるべく、やはり人を育てただろう。
しかし今は最後の希望であるシェブロン博士の教え子たちにまで危険が迫っているのである。
流刑地ルング=ダ=エフサは天然の「非魔法場」であり、魔法でドラゴンに姿を変えたり、身を軽くして上空から近づくなりしようものなら、非力に海へ落ちるか、断崖で体を打ち砕くこととなる。
ともあれ、国家が魔性に狂って蛮行をはたらく時、最も善なる者の居場所は牢獄か流刑地以外にはない。
軍事路線に加担することなどできない。
暴君を諫めて道理を説いたのだ。
また、国法を犯したり抗争したり、相手を傷つけて脱出したところで、何になるのか。
正しいことをした者に国家が報いたやり方が流刑ならば、誰もがおかしいと気付くまで、孤島に生き永らえて正義を示そうではないか。
後事を託すべき弟子は育ち始めていた。
師は、彼らが一切を後継して立つその時まで、一身に難を集めて闘い続けていく。