The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」

第 20 話
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雲は晴れて、晩冬の凍てつく空気に澄んだ夜空が広がっている。

ファラはガントレットのバンドを締め、剣と盾を身構えた。

「ヱイユさん。
どうすれば魔力は強くなりますか?」
「博士の魔法理念の根本は、“生命から迸り出る魔法”。
ならば、その力を強めるために、何が必要だと思う?」

ヱイユが使う変幻自在の妖刀を「ヤマラージ」と呼ぶ。
その形状は、戦況や相手に応じていつも異なる。

時に彼の眷属である魔獣たちが剣に姿を変えることもあった。

今、無刃刀コランダムに縁して、刃がなく刀身の長い剣の形を選んだ。

ファラにしてみれば、初めて会った相手と思えない。
事実、少年がまだ乳児の頃に会ってもいる。

不思議と恐れは感じなかった。

周囲の空気が旋回し始めていた。
風はヱイユの後方から起こって、こちらに向かってくるようだ。

ファラは目に砂が入ってこすりながら、それを上昇気流に変え、空に放ってしまった。

不意にヱイユが剣先を向けて突っ込んだ。
ゾーで体を軽くしたファラは、空気の流れとともに舞い上がった。

「俺と空中戦をする気か。」

ヱイユは垂直に飛び上がって少年の剣に鍔を打ち当てる。
木々のてっぺんまで届くほど飛ばされて、上昇気流もなくなったので、今度は落下の勢いで一撃を狙ってみることにした。

「わははっ、だんだん慣れてきたぞ!」

自分にかかる重力を強めて剣撃を繰り出すだけでは面白くない。
燃え上がる「攻撃型ロニネ」をまとって、一気に突っ込んでみよう。

少年の周囲が燃え上がったかと思うと、下方の相手目掛けて火の玉となり襲い掛かっていく。

これはヱイユも予測できなかった。
かわしきれずに叩き落とされて、地面との衝突寸前に、ひらりと逸(そ)らした。

ファラは森の土を1メートルほども穿(うが)っていたが、ロニネに守られて無傷だった。

「なかなか度胸があるじゃないか。
自分で起こした魔法の効果を信じきっていないとできない。」

兄のような存在だ。
しかし、ひと月ほど特訓漬けの毎日だった彼は、油断しない。

再び身を軽くして、ロニネを張り、足元の地面に「インツァラ」を起こした。

爆発力で穴から飛び上がったファラは、高所で太い木の幹に足を着くと、思いきり蹴って返し、若い狼の姿に変化した。
そのまま標的に、横薙ぎの「トゥウィフ」を放ちながら喰らい掛かった。

捨て駒のロニネでトゥウィフを防いだヱイユは、ドファー(変化)を消滅させる「グルガ」の応用魔法を使ってファラの姿に戻し、消えた牙のかわりに向けられている剣先を払って、勢いのまま湖に落としてしまった。

「ひゃあっ、寒いっ・・・!!」
「ふう・・・。
どうしてロニネを張り直しておかないんだ。
周囲が分からなくなっている状況でも、敵は追撃してくるぞ。」

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