第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
雲は晴れて、晩冬の凍てつく空気に澄んだ夜空が広がっている。
ファラはガントレットのバンドを締め、剣と盾を身構えた。
「ヱイユさん。
どうすれば魔力は強くなりますか?」
「博士の魔法理念の根本は、“生命から迸り出る魔法”。
ならば、その力を強めるために、何が必要だと思う?」
ヱイユが使う変幻自在の妖刀を「ヤマラージ」と呼ぶ。
その形状は、戦況や相手に応じていつも異なる。
時に彼の眷属である魔獣たちが剣に姿を変えることもあった。
今、無刃刀コランダムに縁して、刃がなく刀身の長い剣の形を選んだ。
ファラにしてみれば、初めて会った相手と思えない。
事実、少年がまだ乳児の頃に会ってもいる。
不思議と恐れは感じなかった。
周囲の空気が旋回し始めていた。
風はヱイユの後方から起こって、こちらに向かってくるようだ。
ファラは目に砂が入ってこすりながら、それを上昇気流に変え、空に放ってしまった。
不意にヱイユが剣先を向けて突っ込んだ。
ゾーで体を軽くしたファラは、空気の流れとともに舞い上がった。
「俺と空中戦をする気か。」
ヱイユは垂直に飛び上がって少年の剣に鍔を打ち当てる。
木々のてっぺんまで届くほど飛ばされて、上昇気流もなくなったので、今度は落下の勢いで一撃を狙ってみることにした。
「わははっ、だんだん慣れてきたぞ!」
自分にかかる重力を強めて剣撃を繰り出すだけでは面白くない。
燃え上がる「攻撃型ロニネ」をまとって、一気に突っ込んでみよう。
少年の周囲が燃え上がったかと思うと、下方の相手目掛けて火の玉となり襲い掛かっていく。
これはヱイユも予測できなかった。
かわしきれずに叩き落とされて、地面との衝突寸前に、ひらりと逸(そ)らした。
ファラは森の土を1メートルほども穿(うが)っていたが、ロニネに守られて無傷だった。
「なかなか度胸があるじゃないか。
自分で起こした魔法の効果を信じきっていないとできない。」
兄のような存在だ。
しかし、ひと月ほど特訓漬けの毎日だった彼は、油断しない。
再び身を軽くして、ロニネを張り、足元の地面に「インツァラ」を起こした。
爆発力で穴から飛び上がったファラは、高所で太い木の幹に足を着くと、思いきり蹴って返し、若い狼の姿に変化した。
そのまま標的に、横薙ぎの「トゥウィフ」を放ちながら喰らい掛かった。
捨て駒のロニネでトゥウィフを防いだヱイユは、ドファー(変化)を消滅させる「グルガ」の応用魔法を使ってファラの姿に戻し、消えた牙のかわりに向けられている剣先を払って、勢いのまま湖に落としてしまった。
「ひゃあっ、寒いっ・・・!!」
「ふう・・・。
どうしてロニネを張り直しておかないんだ。
周囲が分からなくなっている状況でも、敵は追撃してくるぞ。」