第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
早速、トーハは出発の準備にかかった。
ノイはこの時間でも会える騎士仲間に事情を話しに行った。
「まだ寝るには早いだろう。
騒ぎにならないぐらいの森の奥まで連れていってやるから、そこで剣と魔法の打ち合いをしよう。」
時間は21時を迎えようとしていた。
歩いて門を出れば守衛に怪しまれてIDを追跡されるかもしれない。
いつも灰色の竜に姿を変えて飛行するヱイユは、飛び立つ姿を見られる心配のない町の南東から、夜間休業中の工場の煙突に沿って上昇した。
その背中にしがみついたファラは、目をつぶって風をこらえている。
雲を突き抜けて上空まで出ると、晴れた日の空のように月が冴え渡り、星々は瞬いていた。
ヱイユは速度を落としていたが、ファラは慣れないことなので、落ちそうでこわくて仕方がない。
『ロニネを張って、風を受けないようにすればいい。』
灰竜アーダの姿なので人間の声は出せないが、その背中からヱイユの声が伝わってきたようだった。
「ふうっ、あとはバランスだけ・・・。」
『振り落としたりはしないさ。』
彼らは今、リザブーグ王宮から見て南東の森へ向かっている。
ミナリィ港との行き来があってもぶつかることはないし、メレナティレとも反対方向にあたる。
次第に雲の切れ間が広がって、下界の様子が見えてきた。
「わぁっ!
海が見えるー!!」
『好きなのか。
船旅はどうだ?』
「実は、船に乗ったことがなくて・・・。」
『俺も移動には使わないな。』
この世界の人々は古来、母なる大地を「アズ・ライマ」と呼ぶ。
星は楕円体であるから、このままずっと南下すれば、南半球の向こう側、すなわちイデーリア大陸の南端に出ることだろう。
ただし、航路には南極をとれないため、船での旅はやはり東へ半周ほど廻らなければならない。
ヱイユは、上空から見て森が開けている湖畔へと降り立ち、元の姿に戻った。