第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
夜、部屋の戸を叩く音がしてノイが立った。
宿主が、来客だと告げた。
それは若い男だという。
町の騎士が何か相談にでも来たのだろうか。
玄関まで下りたノイは驚き、一瞬喜びの声を上げて、2階の部屋まで響いた。
来客は、近頃レボーヌ=ソォラで転戦していた、闘神ヱイユだった。
ノイはヱイユを伴って部屋に戻ってきた。
研究室から出たトーハは、彼を見るなり、にわかに威勢がよくなり、今までどこをほっつき歩いていたのかなどと言った。
これにはヱイユも照れくさいような、申し訳ないような思いになった。
「おお、久しぶりだな。
ここで会えると思ったぞ。」
旧知の仲であるように、ヱイユがファラに声をかけた。
「父さんの、お知り合いの方ですか・・・?」
「そうさ。
ツィクターさんに剣を教わったんだ。」
はじめにヱイユは、鞘に入って帯でぐるぐる巻きになっている、短い剣をファラに渡した。
「こ、これはっ!?」
「覚えているだろう。
ツィクターさんの剣だ。」
それからヱイユは、古都アミュ=ロヴァの片隅にツィクターの墓があること、そこに置かれていた剣を、ただ錆びさせたくないという気持ちから持ってきてしまったことを話した。
少年は懐かしそうに父の剣を抱き、その匂いを思い出した。