第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
「隣国ミルゼオは軍事力を持たず、あるいはリザブーグ傘下に入るかもしれません。
他国との関係を見ますと、たとえばフスカ港は貿易港であり、レボーヌ=ソォラに通じる北のルモア港や、ワイエン列島国、更には大セト覇国など、諸国の利害が絡んでくることでしょう。
この貿易拠点を我が国で治めるとなりますと、ミルゼオが得意とし請け負ってきた『中立』や『世界貿易』といった役割までも引き継がねばなりますまい。」
「ははは、それは面倒だな。
だが我の考えは、ミルゼオを統治するのではない。
配下に入れるのだ。
自治体制は残そう。
ただしリザブーグの政策に従わせようと思う。」
カザロワはすでに、権力という「魔性」に魅入られてしまっているようだ。
軍事力が及ぶ限り、どのような他者の権利でも手中に収められると思い上がっており、その身勝手な構想に酔い痴れていると言っていいだろう。
「それでは、民の願いはどうなります?
家族は引き裂かれ、現在の暮らしは将来につなげなくなります。」
「分からぬか、騎士が死なずに済むよう、機械兵を増やしているではないか。
誰も犠牲になることはない。」
侵略をして犠牲が出ない?
にわかに首をもたげてきた、この「国家主義(ナショナリズム)」に、シェブロンは慄然とした。
他国の民には生存の権利さえ認めないというのか。
このような人間が、傲慢にも世界の行く末を左右しようとしていることに、激しい怒りが込み上げてくる・・・。
「リザブーグ議会は、外交において友好的な路線を選択しました。
国王も賛意を示されています。
15年前、この国は一度滅んでいるのです。
もう二度と、他国侵攻による発展は望まないと、誓って憲法を立てたのです。」
「黙れ。
モワムエがお前と同じことを言うはずはない。
・・・早くここへ連れてくるのだ!」
タイミング悪く、階下で酒を出させて凶暴になったカザロワの護衛兵が、ついに王の間に入ってきてしまった。
「すぐに国王陛下をお連れしましょう・・・。」
4人の護衛と2人の侍者は、手分けしてモワムエを探し始めた。
もし、古くからの王国騎士が守りにあたっていれば、彼らを応接間へ入れることもなかったに違いない。
だが今は王宮の警備も機械兵であり、望むべくもなかった。
この威圧的な支配体質・・・。
年月を経て解き放たれた15年前の暴君が、今メレナティレ城主カザロワの身に入って、再び国家を暗黒の時代へ向かわせようとするのか。