The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」

第 13 話
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玉座は空席のまま、カザロワを上座にあたる王族席に着かせ、シェブロンは侍官として円卓の下座に着いた。

「モワムエはまだか。
先に遣いを送っておいたであろう。」
「はい。
王は議会に出席された後、城下で昼食をとられ、先週発足しました農地拡大の事業の件で、現地をご覧になり、城主様のご到着に合わせ戻られる予定でございます。」
「少し早まったからのう。
・・・ところで農地拡大とは、どういった目的だ?」
「近年の機械技術の進展により、リザブーグでは古くからの王国騎士たちが失業し、経済・治安の面で深刻な不安を抱えておりました。
そこで新たな産業としまして、農業による自給自足化を進めましょうと、わたくしからも申し上げたのでございます。」

シェブロンはカザロワの関心と話題を、軍事路線や遷都という問題から引き離し、できるだけ自身が思い描く王国の未来構想に触れさせる形で、あえて「わたくしからも」と言ったのである。

「すると、ミナリィ港や陸路での輸入に頼っている食物を国内で生産しようというのか。
・・・それは面白い。」

ここでシェブロンは、リザブーグの鎖国政策に偏りがちなカザロワに、話題を持っていかれないよう付け足した。

「機械の輸出もさることながら、これからは優秀な騎士を育て、国外の紛争解決に寄与できる政策をと、城下も活気付いてきております。
また、風土と気候を生かした特産物を輸出することにより、国際社会での地位も向上するものと信じております。」
「そうか・・・。
ところでな、お前はメレナティレに港を作ることについて、どう思う?」

ここでシェブロンは慎重に、熟考の様子を見せる。
下手に反対するよりも、開港による国際交流の可能性という観点から意見を述べることにした。
もちろん、カザロワがメレナティレ港を欲しているのは海外侵攻のためである。

「船で輸出入する物資を、領内縦断する形でミナリィ港から陸路運搬するコストはかなり高いものです。
農地にしましても、東側から開発を進めることとなりますが、まず南北に港を持つことは有為な経済政策となるでしょう。」
「うむ。
・・・では、遷都についてはどう考えておるか?」

全ての問題は国家の舵を軍事路線にとるのか、貿易による経済発展にとるのか、によって大きく異なってくる。
まずは会談のペースを握ったまま、こちらの主張をこの若い城主の耳に入れておくことだ。

「メレナティレ海岸からは古都アミュ=ロヴァへ出易(やす)く、ミナリィ港は東方の国々へ通じる海路を持ちます。
リザブーグ城からミナリィ港へは馬車で数時間という距離にあり、国土の南側の統治、及び隣国フスカ港への道が平坦なことも利点です。」
「そこで我は自由市国ミルゼオを横断する『運河』を作りたいと思うのだ・・・。」

いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
他の国土にまで手をつけるというのか。

「ミルゼオは地方自治国であり、中央政府というものを持たない。
我が国の軍事力を以ってすれば、幾つかの行政区を落とすなど、容易(たやす)いことだと思うのだ。」

ついに侵略の話が出てしまった。
ここからが会談の本題、重要な論戦となろう。

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