第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
昼前、キャラバン(大型馬車)に2人の侍者を伴い、騎馬の護衛も4頭付けたカザロワがリザブーグに到着した。
王族専用の通用門に馬車ごと乗り入れる。
通例、5階・応接の間へ通る前に武器を預け、護衛の者は外で待機する。
6階・王の間は武装を解いた上で正装しなければならない。
王宮の侍官が来訪者各人に当てられて「お預かりしますか?」と尋ねると、カザロワが先頭切って「その必要はない」と答えた。
護衛も全員、応接間へ入ってしまった。
これは異例のことである。
もちろん、しきたりを知らずにやっていることではない。
これを聞いたシェブロンは、大方予測していたことではあるが、応接間で会うのをやめ、カザロワ一人を王の間まで通さなければならないと思った。
仕える立場の者が案内に立てば簡単に拒否されるだろう。
国王の名代として、シェブロン自ら出向くことにした。
緊迫する中、正午を告げる時計の音が鳴り響いた。
今日は食事を囲んでの会談になどできるはずもない。
先に昼食を出させよう。
小一時間、至れり尽くせりのもてなしをすると、メレナティレの侍者も護衛もすっかりいい気分になってしまった。
一息つかせて先方の緊張感をほぐしてやる。
頃合を見て、シェブロンは6階側の扉から応接間に入った。
彼はどんな時も、相手の善性に呼びかけるように接し、その究極の善性である、万人に具(そな)わった“LIFE”を敬うように応対する。
カザロワから順に、侍者、護衛と、一人一人に礼を取ると、極めて身の低い態度に映ったのだろう、一行は待遇に満足の様子だ。
「カザロワ様、王の間へご案内いたします。」
するとカザロワ自ら護衛を制して言った。
入室は国王に列する者だけに許される行為だという、従者への優越、王族のプライドがそうさせたに違いない。
「ここからは我一人でよい。
しばらくくつろいでおれ。」
権力者が従者を伴う場合、本来の人格よりも横柄に、強引にならざるを得ない。
彼は帯剣も武装も解かなかったが、シェブロンにしてみれば狙い通り、一対一の会談に持ち込めたことになる。