The story of "LIFE"

第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」

第 11 話
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リザブーグ王宮の6階、王の間があるフロアに一室を与えられているシェブロンは、午前中から頭を抱えていた。

昼頃、メレナティレ城主カザロワが来るというのだ。

今までは遣(つか)いを送って手紙を届けさせるなどしてきた彼が、ついに自ら動き始めた。
主な用件は先日、遣いが持ってきた手紙に記されていた。

王国の首都をメレナティレに遷(うつ)せというのである。
これは君主としての地位を譲れと言っているのも同然だ。

シェブロンは、もし急進主義者のカザロワが国王にでもなれば、これまで苦労して育ててきた王国の「民意」が踏み躙(にじ)られてしまうであろうことを憂慮した。

それはまだ、国家権力という「ハードパワー」に打ち勝つほどの力を持ってはいないのだ。

芽生えたばかりの力で、軍事路線や圧制に対して立ち上がれるだろうか。
武力で衝突すれば血が流されることになる。

“LIFE”という生き方を知り、ようやく生まれ変わろうとしている人々を、大国のエゴのために戦争加担させることなど絶対に許してはならない。

彼の脳裏には、北へ行かせているタフツァのことが思い出された。
自分の教えをよく聞いて熱心に勉強し、急速に才能を開花させた愛弟子である。

それからソマ。
幼くして肉親と別れ、義父母に育てられた少女時代。
LIFEに入門してからも、寂しい気持ちを我慢して強く優しい女性に育った。
もしもまた会えるなら、いくつかの弱点を補ってやりたい。

また、フィヲとザンダを引き取って育てたのはシェブロンである。
二人とも両親がいない。
ヴェサが同行してくれたおかげでフィヲを育てることができた。

いつも心配なのはザンダだ。
博士に対しては素直になってきたけれども、タフツァを困らせているに違いない。
しかし、本心というものは、世代が近い方が見えやすいものだ。
人を育てるには、根本的には師が必要だが、日頃から切磋琢磨してくれる兄のような存在も不可欠である。

更に15年前、苦しい暗黒の時代、このリザブーグでともに戦ってくれたツィクターとパナの夫妻。
当時の記憶とともに、ヱイユとファラのことが思い起こされた。

あの幼子が、両親の志でもある“LIFE”を継いでくれるとは。
シェブロンは、タフツァにはLIFEの中心者としての役割を、そしてファラには究極の魔法“LIFE”の実現を託すつもりでいた。

「きっと、やってくれるぞ。
それほど遠くない未来、・・・どんなに素晴らしいだろう!」

彼は決断した。
諫(いさ)めよう、生命(いのち)に変えても・・・!!

弟に対して気の弱い国王モワムエと、カザロワを直接会わせる前に、まずはシェブロンが話をつけることにした。

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