第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
ファラは一瞬、自分の中の「闘神」が目覚めかけたことを感じて身震いした。
もし、魔法が禁じられていなかったら、倒れた相手に追い討ちをかけたことだろう・・・。
審判が少年の勝利を宣言する。
彼は汗に混じって額から血が滲(にじ)んでいるのに気付いた。
魔法の「トゥウィフ」ではなく、魔剣から起こった鎌鼬(カマイタチ)だろう。
控え室に戻ると、ルアーズがタオルを渡してくれた。
「まるであなたの魔法を見たようだわ。
燃え上がる炎と、迸る稲妻を・・・。」
夕刻、ファラはぐったりと疲れて宿へ向かった。
ルアーズとはジムで別れた。
特訓の成果は目に見えてきている。
腕の力も全身の筋力も、ずいぶんとついたようだ。
相変わらず1階で話し込んでいるトーハと、まだ隣町から帰らないノイ。
ファラは疲れ果てた目で、課題になっている「グルガの本」を開いた。
「生命が持つ、生滅の現象。
生き残るための殺生・・・。」
生きるか死ぬかの戦場で、相手を滅ぼして自らの生命をつなぐ。
「グルガ」とは、そのための魔法なのだろうか。
「邪悪なる一念の滅却。
“絶対的存在”の前で消え去る悪魔の蠢動。
・・・これは、一体?」
“絶対的存在”など、果たしてあるのか。
生命それ自体が生成生滅を繰り返すというのに。
「生まれては死に、死んでは生まれる。
・・・そうか、万物を生み出すこの宇宙自体、一個の“生命”なんだ・・・!!」
では、何のために宇宙は生命を生み出すのだろうか。
争い、滅ぼし合うためか。
悲しみ苦しみの連鎖を繋げるためか。
「違う。
“LIFE”だ。
内なる宇宙、無限に広がる可能性。
一人の胸の内に閉じ込めておくことのできない、広大な祈り・・・!!」
ファラは力を振り絞ってペンを執ると、博士からもらった「グルガの本」のひと頁に、次のように記した。
「大宇宙の祈り、“LIFE”。
ぼくらはその実現のために生を受けた。
大小の宇宙が同じ一つの願いに目覚め、合致して運行する時に発動する、宇宙大の魔法エネルギー。
それが究極の魔法“LIFE”。」
机に向かったままペンを置くと、少年は眠りに落ちてしまった。