第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
審判が開始を合図した。
ファラの先手だ。
子供の頃、父から教わって幾度となく彼の生命を救ってくれた“フィナモ(炎)”。
両手の平の間から、勢いよく飛び出す炎のように、ファラは盾を前に、剣を突きに構え、右手の剣を目一杯後ろに引いて強襲した。
すぐに魔剣が飛んでくる。
無刃刀コランダムのV字型の鍔(つば)で魔剣を受け止めて、無理やり剣先をねじ込むようにして一撃を狙った。
しかし、鍔(つば)が魔剣の鋭利な突起に引っ掛かってそれ以上押せない。
『違和感があると思ったら、この人、利き腕が左なのか・・・!』
腕の力では敵(かな)わない。
下手に引けば魔剣の餌食になるだろう。
ファラは組み合った剣の力を抜かず、押される力で後方へ飛び退(すさ)った。
ボルフマンの攻勢である。
斬撃を盾で受け止めたが、次が来る。
これでは防衛に終始しなければならない。
ファラは盾で受けることをやめた。
無刃刀の柄と、刀身の先の方を握って、魔剣が来たら武器で受ける。
突きを正面で受け、斬撃を上で受ける。
すると相手の腹部に隙ができた。
ボルフマンも両手を使っている。
ファラは魔剣を押し返して、相手の腹部に盾でタックルを入れた。
『あの剣を、絡め取ってしまおう・・・!』
ファラは相手の右前腕に付いた盾に自分の盾を叩きつけ、押し込みながら、飛んできた左からの突きを蹴撃で外側へ逸らしてしまった。
魔剣が床を滑って水に落ちていく。
『今だ!
天から迸る“テダン(雷)”のように・・・!!』
至近距離で少年のコランダムがボルフマンの利き腕である左肩に激突し、この魔剣士は半回転して飛ばされ、うつ伏せに倒れてしまった。
これには歓声よりも驚きと恐れの声が溢れた。
息が切れ、全身から汗が吹き出している。
武器を取り落としそうになって地面に両手を着いた。