第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
ルアーズの対戦相手は体格が一回り以上もある巨漢で、彼女と同型の格闘家バグティムトという男だ。
両者ともヘッドギアとプロテクターを着用している。
ナックルは革製のものと定められた。
ルアーズが先手を取った。
身を低くして、相手の懐に潜り込むように入る。
バグティムトは右膝を突き出し、防衛姿勢をとりつつ、ルアーズの背中目掛けて上から拳を振り下ろした。
ルアーズは右にかわして、左拳で相手の下顎を真上に突き上げた。
そして巨漢が左拳を水平に繰り出すのを両手で受け止めると、後ろへ飛び退いた。
今度はバグティムトの攻撃である。
走り寄りながら、左前腕を盾にした、右からの一撃を狙う。
ルアーズはあえて相手の左腕に飛び付き、手首を掴んで前腕に膝蹴りを入れた。
これでバグティムトは攻勢にあるルアーズと正面で向き合う形になったので、右腕も盾に構えざるを得なくなった。
しかしルアーズの左足の甲がバグティムトの右肩、首の付け根辺りに炸裂したため、さすがの巨漢も前へ倒れてしまった。
最速の決着である。
場内から歓声が上がる中、ファラは1階に回って控え室に入った。
次の試合に出ることになっている。
ガントレットと魔鉱石の盾インブル、そして愛用の無刃刀コランダムを身に着ける。
ルアーズが汗を拭きながら戻ってきた。
「相手を見極めるために様子を窺(うかが)うっていうやり方もあるけれど、私はあの通り、先制攻撃が信条なの。」
「一瞬の判断、そこは勇気がいる所です。
場数を踏まれているからできるとも言えるのでは?」
「シェブロン博士の戦法で言う、一瞬の生命の発露、“一念”の力だわ。」
「“一念”か・・・。」
ファラはその言葉に強く感じ入るものがあった。
魔法とはつまり、“一念”が様相(すがた)となって表れたものなのではないか。
それならば、炎や水といった目に見える魔法、冷気や熱といった体感できる魔法の姿形をとらなくても、“LIFE”の実現は可能なのではないだろうか。
呆気にとられたように言葉が出なくなっている少年をルアーズがからかう。
「ほらっ!
出番でしょ。
集中していないと、痛い目に遭うわよ!」
「はい、集中・・・、フアラ(=一点集中型)。
ぼくのなまえです。」
命名の由来を気付いてはいたけれども、ルアーズはけらけらと笑った。