第 05 章「宿命」
第 01 節「民衆と国家」
王宮にあって、スヰフォスからの手紙を受け取ったシェブロンは、4つの城下町の外側に、農地開墾のための新しい地盤が必要だと国王を諭して、それを国の事業として発足させることができた。
これでまた失業騎士たちに職がもたらされることになる。
同時に、ミナリィ港からの輸入に頼っていた農作物を自給できるのだ。
封印の地ディスマを抱えた国土で、人々は王宮の近くに住む傾向があったが、これからは農業という道が開けてくるだろう。
国王モワムエは、いつもびくびくおどおどしている男で、何かにつけてはシェブロンを頼った。
ここのところ、弟のメレナティレ城主カザロワが遣いを送ってきている。
「あなたは国王なのです。
下吏(かり)が遣わされる限り、直接お会いにならず、お返事も数日を要する内容ですから、滞在させるのがいいでしょう。」
「そうだな、・・・いや、あいつの機嫌を損ねはしないだろうか・・・。」
「できるだけ早く、国として進むべき方向を明示しましょう。
そしてこちらからメレナティレに注文をつけていくのです。」
「おお、おお。
そうだな。」
議会ができてから、行政については国王の権限ではなくなっている。
しかし古くからの王制が染み付いており、民意も弱くて未だ国王に主導してもらいたいという気風が抜けない。
これでは帝政への逆行も危惧されるし、権力の行方によってはどのような政策でも取り得る。
シェブロンは城主カザロワが積極的に機械による軍事路線を国王に進言し、実際、彼の権力が行き届くメレナティレにおいては独自に戦闘用ロボットを開発してきたことを警戒する。
遣いが持ってくる文書の中身は、東方の国々との戦争に備えてメレナティレ港を開くことにしたので援助金を出してほしいとか、ワイエン列島国に対抗できる海軍を持つために水夫の育成と造船所が必要だ、などと国家の路線を決め付けたようなものばかりだ。
確かに、大セト覇国は軍備を進め、ワイエン列島国では内戦が続いている。
他国を侵略して自国を繁栄させようという国々へは、必ず“LIFE”思想を伝えて根本的な変革を、民衆発の革命を、どうしても起こさなければならない。
目下、城下町ではノイらの奮闘で、正しい民意が育ちつつあった。
正しい民衆があれば、たとえ国家が誤った路線を選択したとしても、これを修正する力となるのだ。
リザブーグ王国が15年前に暴君と王制を捨て、立憲君主国として再出発した意義は大きい。
この、民衆が勝ち得た自由の権利を、絶対に国家の手に戻すようなことがあってはならない。
だからこそ、一人一人を“LIFE”に目覚めさせるのだ。