The story of "LIFE"

第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」

第 16 話
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翌朝、シェブロンと会ったファラは、博士が神経を摩り減らしてほとんど休まずに一夜を明かしたことを察した。

「先生、ぼくたちはまだ未熟で、先生にお元気でいていただかなければなりません。
師に一番大変な所へ行っていただくことは心苦しく、かわりに行けるものならぼくが行きたい気持ちです。
どうか、お体をお大事になさってください・・・。」
「わたしは君がいてくれるおかげで、安心して王宮へ行けるのだ。
この仕事はわたしがやらなければ。
そして、弟子に託すことは全て託すことができた。
苦労をかけるけれども、後のことは頼んだよ・・・。」

ファラはなぜか、これが師との今生の別れのように思えて、涙が溢れてきた。

「不甲斐ない弟子で申し訳ございません・・・!
必ず、“LIFE”の実現は、弟子の手で成し遂げます!!」

シェブロンは熱い眼差しを弟子に注ぐと、少し微笑んで、一晩考え抜いて書き上げた手紙の束をファラに渡した。
まとめれば一冊の本になるほどの量がずっしりと重い。

「ここに、魔法の応用についてや、『グルガ』の修得方法など書いておいた。
必要な箇所があればタフツァ君やソマにも会った時に見せてほしい。」
「分かりました。
一頁一頁、生命に刻んで覚えます・・・!!」

シェブロンが寝ずに敢行した作業の大半は弟子に書き残すための執筆であったと気付いたファラは、食堂へ降りていく博士を見送ったあと、胸がいっぱいになって長いこと洗面台の前にいた。

一階の食堂では、打ち合わせ的なことは一切語り合わなかった。
努めて明るく食事をし、宿の従業員に声をかけ、日頃のシーツ替えや清掃、食事の支度などの労に感謝の気持ちを伝えた。

博士は宿の経営者に、自分は王宮で仕事をするようになるから、滞在は3人になるが同じ部屋を借りても構わないかと聞いた。

「それはすばらしい!
先生、国の将来のためにひとつお願いしますよ。
部屋は十分空いておりますので、3人様のお部屋代で結構です。」

朝の稽古はなくなって、隣町のトレーニングジムを一般にも開放した上でほぼ貸し切り状態の訓練が行われる。

ノイは博士を王宮まで護衛すると、そこで弟子の礼をとって跪(ひざまず)き、騎士として剣にかけて誓った。

「たとえ離れた場所であっても、博士の身に危険があるときは即座に駆けつけてお護りします。」

彼はファラのように涙を流したくても、そうすることはできないのだ。
博士はただ、「分かっている、ありがとう」と、生命をともにする騎士に深々と頭を下げた。

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