第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」
ノイは珍しく鉄の丸盾を持ち、剣には鞘をつけたまま稽古に臨んでいた。
懐かしいツィクターの剣を受けた時の手応えを感じて、込み上げてくるものがあったが、面(おもて)には出さない。
ファラの訓練を預かった以上、少年の未熟な所、甘い所を突いて、多少の打撃を与えても鍛え上げてやらねばなるまい。
いい汗をかいて、ファラは倒れ込み、さすがにノイも座り込んだ。
ルアーズはこんなに見ていて楽しい打ち合いは今までなかったと言った。
ファラはノイの一閃一閃に父へと通じる温もりを覚えながら、必死に受けては返していた。
こうして時間を割いてくれているのだ。
受けるばかりではいけない。
隙のないノイに隙を作ってでも、一太刀二太刀浴びせるよう努力した。
川の水を飲みに行って、ノイは町に戻ると言った。
昼までもう少し時間がある。
魔法の学習をするのがいいだろう。
「パティモヌ」の本を開き、最初のページに描かれた魔法文字を正確に写してみる。
魔法を覚える時は、地面に文字を書いて大小の円で囲み、魔法陣を形作るのが基本だ。
少年は川の流れを倍加させる発動から始めた。
魚がびっくりして飛び跳ねた。
「ヴィスク(狼)は地下水を集めて上空まで持ち上げていた。
ぼくにあんなことができるのかな・・・。」
温かな午前中だったが、季節は冬である。
汗も冷えて呼吸は整い、激しい運動による多少の吐き気も治まって、この若い魔法剣士が空腹を覚える頃になった。
ルアーズは仲間の女剣士サザナイアと、気の弱い男の魔法使いアンバスのことを話してくれた。
「旅に出た当初はリーダーのサザナイアに教わることばかりだったのよ。
彼女に戦術を教えてくださったのが、あなたも教わったスヰフォス先生だなんて、不思議よね。
私は元々、王国騎士に志願する子供たちが習う拳法だけ、経験があったの。
それがスポーツじゃなくて実戦になった時、筋力を付けるためにウェイトトレーニングをしたわ。」
「そうだ、ぼくも武器屋さんで見せてもらった、もっと大きな剣を使えるようになりたくて、筋力を鍛えないといけないんです。
この『コランダム(剣の愛称)』も木の杖に比べたらずいぶん重くて、両腕が痛くなってきましたが。
もし『重り』がありましたら、貸していただけませんか。」