第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」
翌日の朝食後、ノイは約束していた「バックラー(小盾)」をファラに渡した。
トランプのダイヤ型をしていて、中央の突起が鉱石になっている。
これによってタックル攻撃に威力が付加されるのだ。
近年、かつての封印の地「ディスマ」で採掘が行われるようになると、その産物には永年の魔法場からの影響が見出され、学者たちの関心を引いていた。
ところがリザブーグには「ディスマ」という名前を極端に忌諱(きい)する意識があり、使用する者はほとんどなく、実戦でどのような力が発揮されるかは未だ検証されていなかった。
ノイがシェブロン博士に問うと、封印に使われた方陣は正の五芒星に火・風・水・土の四属性を配置したもので、ここから影響を受けた鉱物には正の発動を強めるはたらきが具わっているからと、ファラの使用をむしろ推奨する見解だった。
学者たちの間で「メヌゼウム」と呼ばれるこの石は、魔法杖などの装飾品を手掛ける職人によって切削され、盾にはめ込まれている。
美しく明るいグリーンをしており、一度その煌(きらめ)きに取り憑(つ)かれると、表情は緩み、我を忘れてボーッと見入ってしまうという。
王宮に勤める騎士たちは失業への不安を抱えて、解雇された元同僚などからも恨(うら)まれながら暮らしていた。
彼らが配備の合間に過ごすパブリックハウス(パブ)へ立ち寄ったノイが、顔見知りの騎士長に不要な盾はないかと聞くと、国内の辺境探索部隊などで試用を求められているバックラーがあるが、皆、気味悪がって使わないと話した。
こうして譲り受けた盾はファラが「インブル」と名付け、新しい鋼の無刃刀には「鋼玉」を意味する「コランダム」を愛称とした。
やがてルアーズが宿に来て、どこか見ておきたい場所はあるかと聞いた。
ファラは博士に出された課題のうち、狼のヴィスク経由ではあるが発動経験のある「パティモヌ」を覚えたいので、水場があれば手伝ってほしいと言った。
その前に、日課とされた剣の稽古が行われる。
さすがに町中ではできない。
ルアーズを伴って南のゲートから外へ出ると、ファラとノイは夢中になって剣を振るった。