第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」
学師が帰った後、部屋では引き続き会議が行われた。
ファラはノースイーストタウンでの出来事について、詳しくは話さなかったが、小さな木のために築かれていた、あの壇は一体何なのかと尋ねた。
「リザブーグでは、15年前に暴君『ディ=ストゥラド』を倒したのが一人の女性であったと語り伝えている。
君のお母さん、パ=ムヴィア=ナさんのことだ。
しかし、そのお名前までは知られていない。
今でこそ四つの城下町を持つけれども、以前はノースイーストタウンを中心とした扇形の一つの町だったのだ。
あの木が立っている辺りに、ツィクターさんとパナさんの家があった。
つまり、君はあの場所で生まれたのだよ。」
国の再建とともに植えられた、平和の誓いが込められた一本の木は、元その場所で生まれた少年とともに年輪を重ね、成長していくのである。
彼はついに自分の胸の内だけに秘めておくことができなくなって、大事に持っていた「髪飾り」を取り出して見せた。
「それは・・・!!」
「パナ=リーシャという、5~6歳くらいの女の子がぼくにくれたのです。
街路に隠れてしまったので、探しましたが、もう会えませんでした・・・。」
「確かにパナさんが付けていたものだ。
決戦の前にソマが譲り受けて、城が崩壊する時なくしてしまったという。」
ノイもトーハも彼女のことはよく覚えている。
「彼女は少数民族の出身で、『パナ』というのも家系の女性が受け継ぐ『ムヴィア』という名前以外をつなげて呼んだ愛称だった。」
「わたしが思うに、ツィクターさんはパナさんの故郷である『カーサ=ゴ=スーダ』、つまりレボーヌ=ソォラの東方に位置する少数民族地帯を目指して旅をされたのではないでしょうか。」
そういわれてみるとファラは思い当たることがあった。
幼少の頃、寒い雪の日、父とともに魔法使いばかりの寂(さび)れた集落を訪ね、そこに泊めてもらおうとして追い返された記憶が蘇ってきたのである。
「パナさんは最後の魔法陣を描く時、ご自身の生命が続く限り、その手で魔王を封じ続けるという発動の形をとられたようだ。
限りある生命による『封印』は、彼女のこの世の使命の終わりとともに解放される。
そして生命の休養である“死”の期間を経て、また新しい生を得ることになるのだ。」
「いつまでも母に苦労はかけられません。
もしリーシャという女の子が母の後身ならば、封印は効力を失って魔王もまた姿を現すでしょう。
今度はぼくたちが悪魔に打ち勝って、みんなの未来を開いていかなくては・・・。」