第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」
宿の2階、奥の部屋ではスヰフォス学師を交えて夕食会が持たれていた。
シェブロンは、本来ならば自分が教えを乞いに出向かなければならないところを、こうして足を運ばせてしまったことに深く感謝し、“魔法革命”という信条については一歩も引かず、腹を割って話すことが大切だと考える。
年齢的にはスヰフォスの方が上である。
「ワシは14歳のファラに戦闘での心得など教えたが、どうにも求めに全て応えてやることができないという、自身の限界を感じてしまっていたのだ。
そして当時からお前は、まだ名も知らぬ“LIFE”思想というものを求め、あるいはその一部をすでに修めておったように思う。
今こうして再会してみると、ワシはお前が伸びていく道に“LIFE”というものを教えてもらった気がするぞ。」
ファラはこの師に誉められることや感心されることはあっても、叱られたことなどなかったが、これからシェブロンに師事して学んでいこうとする“LIFE”の天分(てんぶん)についてこのように誉められることは恐れ多くもあり、過大な評価と言って否定しなければならなかった。
「ビオムを発ってから、何度、死ぬような危険に遭ったことか・・・。
先生の教えがなければ到底生き延びられませんでした。」
スヰフォスは2ヶ月ほど前からこの町に滞在し、友人の子弟に戦術の手ほどきを与えるなどしていた。
彼は日頃、“LIFE”を意識してではないにせよ、武術を志す者に、その体格や瞬発力・持久力、跳躍力などを見ながら適切な戦法を教え、どの資質を伸ばすことが本人の目指す道に適った修行であるかを説いた。
世界中の武器屋に知人が多いのも、新旧の武器を見てノートにスケッチし、実戦で用いた場合の威力や強みと弱みを見極めてまわっているからである。
また、国と人との関係を重要視し、身につけさせる武術も、国が進める軍事路線にある程度沿って指導してきた。
これは産業の発展と若人の育成は切っても切り離せない関係にある、という考えに基づいてのことである。
だが武器の取り引きなどはせず、スヰフォスの推薦を受けた武具が多く発注されたり、彼がユニークな武器を試しの一振りとして購入することも多かったため、店から優待を受けていた。
飽くまで多種多様な戦士の育成から得た安価な月謝で生活しているのである。
「ご覧の通り、リザブーグでは急速に機械化が進んできておる。
他国を見ても、戦乱の収まらない世に、若者が武道を志すことは必要に迫られたことであって、我が身を守る武器防具は未だ撤廃することができない。
とはいえ、振り返ってみればワシの人生は、能力を引き出して技術を授けるばかりで、それを『何のため』に用いるかといった目的観までは、与えてやることができなかったかもしれない。」
この述懐はまことに深みを持っていて、ファラだけでなくノイにもトーハにも響くものがあった。
「古代魔法グルガの封印が解かれてまだ15年。
世界はますます混迷の度を増しています。
わたしはもう一度、全ての魔法が存在した本来の意味まで訴え抜いて、戦乱を収拾し、各人の内なる“究極”というものを目覚めさせていきたいのです。
グルガを宿命とする術士は、果たして殺戮のために生まれてきたのでしょうか?
わたしはそう思わない。
武力もまた同じです。
今巷に溢れてしまった、失業騎士たちの『剣の力』を、国のため、世界のため、存分に活かせるような道を開かなければならない。」
この夜、シェブロンの熱意に打たれたスヰフォスは、「LIFE騎士団」の結成のため、滞在を伸ばしても必ず力になると約束してくれた。