第 04 章「開戦」
第 02 節「時の覚醒(かくせい)」
リザブーグが王国騎士団で栄えた頃なら、動物への乱暴でも取り締まったに違いない。
騎士の数が減ってしまった今では犬もケガを負わされ、ファラたちが介入しなければ男に生命まで奪われかねなかった。
今回の旅の目的を考えれば、応酬があったことを取り沙汰されずに済んだのは幸いだが、明らかに治安まで悪くなってきている。
男は、午前中にスヰフォスが言ったようにファラの杖の捌き方を見て何か感じるものがあったらしい。
唾を吐き捨てるようにして背中を向けると、横目で少年を睨み付けて逃走した。
だが、この場面をノイに見つかってしまったのだ。
「オルグス、待て!」
彼はファラに軽く会釈して、この場は奴を捕まえねばといった気迫で駆けていってしまった。
哀れな犬はクーン、クーンと鳴きながら、びくびくと体を震わしている。
「もう大丈夫よ、治してあげるからね。」
「どこか、手当てのできる場所はありますか?」
「ノースイーストへ案内したかったけど、私、この子を連れて一度家に帰るわ。
家族に預けてくるから、夜またアイディールの宿で。」
「ああ、ルアーズさん、久し振りに帰られたんですから、ゆっくりしてきてください。
ぼく、武器を見てからスヰフォス先生を訪ねてきます。
また合流しましょう。」
ルアーズは近所の家から水道を借りてファラに血を洗い流すように言うと、荷袋の中から膏薬(くすり)と包帯を取り出し、彼の左手に丁寧に巻いてくれた。
実家の場所が分からないだろうからと、明日の朝食が済んだ頃、一行の宿に来るそうだ。
手の傷はさほどのものではない。
ファラは多少道に迷ってもこの町を自由に見て回りたい気持ちがあった。
隣町への門は城の東西南北にあって、今見えてきたのが「東門」になる。