第 04 章「開戦」
第 02 節「時の覚醒(かくせい)」
キャンプに戻ると、ノイが水を汲んできて、トーハが野菜を切っていた。
博士は炊事に入れてもらえないらしく、御者と談笑していた。
「みなさん、おはようございます。
さっき、川で出会ったルアーズさんです。」
「おお、おはよう。
・・・さああたりなさい。」
彼女は数年間、パーティを組んで旅をしていたようだ。
フスカ港まで戻っていったん解散し、祖国リザブーグへ帰る途中だった。
背負ってきた荷袋には着替えがあって、濡らしてしまった衣類はキャンプ・ファイアのまわりに干している。
また、戦法の一つとして川などの水を利用することがあり、衣類の下にはウェット・スーツを着るという。
「私が子供の頃、新しい王国ができると聞いて周辺国から人が集まってきた時に、うちの一家もリザブーグへ移住しました。
元は東の大陸で暮らしていたらしいのですが、ロマアヤ公国が大セト覇国に滅ぼされる戦乱の時期だったので、船で渡ってきたのです。
今回の修行の旅は、生まれ故郷であるロマアヤ、じゃなくて・・・、セトの情勢を自分の目で確かめたいというのもありました。」
「生まれた国がなくなってしまうなんて寂しいですね・・・。」
シェブロンも会話に加わっている。
「ロマアヤ公国は滅んだけれども、その民はまだ再興を願って生き延びている。
戦乱を招くセトよりも、ロマアヤの賢王に統治してもらいたいという人は国内外に多い。」
「北の魔法国や、機械国になりつつあるリザブーグとも違って、セトは軍事国です。
陸軍と海軍を持っていて、それぞれチャリオット(戦車)と砲台を載せた船団を主力としていました。」
「軍事路線は長続きしないだろう。
最大の力である“民衆”が疲弊してしまうからだ。
彼らは侵略によって国内に利益がもたらされると信じているが、そのエネルギーは自国の開発にこそ注がなければならない。」
ファラや初対面のルアーズにとって、シェブロン博士はまだ謎に満ちた人物だったが、大陸の外で起きていることについても実によく知っていて驚かされた。
「ほら鍋が煮えたぞ。
取りにきてくれ。」
ルアーズはトーハのところからボールとスプーンを持ってきて博士に渡した。
そしてファラは御者の分をもってきた。
野菜の皮などは捨てずに馬が食べている。