第 04 章「開戦」
第 02 節「時の覚醒(かくせい)」
ファラは水を飲みたくなって川までやってきた。
歩行音がして対岸を見ると、警備中のロボットが何かを追尾する時の速度で走っていくようだ。
人型で、地面からの高低差と突起物の存在を検知できる「マシンアイ」を持っていた。
馬車には管制用のIDが付けられていて安全だが、個人ではまだそれを持っていない。
8時を過ぎれば関門で取り調べを受け、許可された者に与えられる。
ここは国境を越える手前であり、領内から野良機体でも追いかけてきたのだろうか。
少し南へ下った辺りが水深のある岩場になっている。
彼は両手で水を掬(すく)って口に含み、月明かりに照らされる川の流れを眺めていた。
すると、ロボットが岩場に近い木陰で立ち止まるのが分かった。
「しぶとい奴・・・!」
女性の声がする。
ファラは立ち上がって、こちら側の岸づたいに、音を立てぬよう、近づいてみた。
まだ国外ではあるが、万一、排除の対象にされて王国の公的警備兵とトラブルになれば面倒だ。
その時、バシャーンと、水しぶきをあげて、逃亡者は川に飛び込んでしまったらしい。
ロボットは水に入ることができない。
攻撃対象を見失ってしばらくセンサーで走査を行っていたが、どんなに周囲を探索してみても前の追跡データは見当たらなかったようだ。
巡回の領域を越えてしまったことにようやく気が付いたのか、機械兵は王国側の森へ帰っていってしまった。