第 04 章「開戦」
第 01 節「憎悪の対立」
「くそっ、俺たちの敵は悪魔結社マーラなんかじゃない。
人間が持つ、欲望と憎悪、分かり合えない者への排他的な『エゴイズム』なんだ・・・!!」
どうしてバリアの魔法を解いたのか、服までボロボロに傷ついたタフツァの姿を見ると、“LIFE”の実現のために数々の難を受けてきたシェブロン博士のことが思われた。
博士は今、もう一つのパーティを組み、再び戦乱の渦と化しつつあるリザブーグの地で戦っているのだ。
ヱイユはこのレボーヌ=ソォラで過ごせる時間もそう長くはないことを感じた。
博士たちの身に危険が迫っている。
やがてタフツァが口を開いた。
「・・・どんな言葉も届かなかった。
魔法で生命を奪われる隊員。
剣撃を受けて死傷する術士たち。
僕一人、無傷なまま戦えはしなかった・・・。」
「お前は立派にリーダーの役目を果たしたさ。
後のことは俺が責任を持つ。
ソマたちの所へ連れて行ってやるから、少しだけ、ここで待っていろ。」
もはや城塞内外は叫喚の地獄と化してしまった。
一体誰の指示によるものか、不吉な六芒星を描くように焚かれた篝火(かがりび)が、恐ろしい増幅作用を持つ魔法場を現出して、彼らの深い罪悪を深紅に染めている。
形に添って動き回るシャドウはまるで15年前の大空を埋め尽くした黒い翼の悪魔たちのように、貪欲な殺戮を繰り返した。
ヱイユは、もし自己を破滅させることになっても、両者の間に分け入って、互いに相争えなくするべきかを考えた。
だが、どうやらそれには手遅れらしい。
人を信じること。
最後まで約束を守り通すこと。
そして裏切られ、自らが犠牲となること。
LIFEは本当にそれでいいのか。
博士もタフツァも、人が好(よ)すぎるのではないか。
どうすれば、これほどの憎しみから人々を救えるだろうか。
見ると、白い一匹のテン(=イタチの仲間)を連れた魔法使いが、埃まみれの夜風に吹かれながら、炎に照らされて戦場に近づいていくようだった。
「あいつは・・・!?」
ヱイユは魔法使いの名前を知っていた。
彼こそが、悪魔結社マーラを設立させた張本人であり、長年行方を眩ましていた、「悪魔術士フィフノス」と名乗る人物だったのである。