第 04 章「開戦」
第 01 節「憎悪の対立」
「ねえ、ザンダ。
港町フスカに滞在した夜、ドガァと一緒に、山の祠に行ってもらったじゃない?
あそこで何が起こったの?
次の日には全部が解決して、空の黒い雲も消えていた・・・。
あの子は、一体・・・。」
少女フィヲには、ヴェサの言うように、何か「特別な力」が具わっているように思われた。
しかし彼女は、自分でも分からないその「力」、果たしてそんなものがあるのかどうかも分からない“自分の資質”とは全く異なる“何か”を持ち合わせる者として、「魔法使いファラ」のことが気になっていた。
ザンダもまた、あの少年に対しては特別な思いを抱いていた。
最初に感じていたやきもちは、ファラに接した短い会話の印象だけで消えてしまった。
その思いの大部分は疑問のままであったが、フィヲが示すファラへの関心という形でなんとなく理解していた。
つまりザンダがフィヲに惹かれているのと同じ理由で、フィヲもファラに惹かれているのに違いない、ということだった。
「おれが着いた時、祠の辺りは狼の魔法で岩も森も全部吹き飛ばされていて、ファラ君が町の兄ちゃんたちを守るために、総力で“ロニネ”を張っているところだったんだ。
狼の爪に宿った力が“トゥウィフ”だって気付いて、おれはファラ君のロニネが一撃で破られると思った。
だから、狼を操ってる術士を、先に倒さなくちゃ、って・・・。」
「そうだったんだ!
次の日の朝、ザンダが博士に怒られていたから、何か悪いことでもしたんじゃないかしらって思ったけど。
・・・ザンダがファラ君を助けてくれたのね。」
この時フィヲは、ヴェサたちのいる部屋から持ってきた、一冊の古い本を取り出した。
そして指にはさんでおいたページを開くと、ザンダには見慣れない一つの文字を示しながら、いかにも嬉しいといった表情を見せた。
「見てザンダ。
この文字が分かる?
私もこの本を開いて初めて見たの。
私の頭の中に、ず~っと前からあった文字!
不思議でしょう、『ゼエウ』って読むみたい・・・。」
それは魔法陣の中で、既出のものでは攻撃を表す「ドゥアラ」や防御を表す「ロローワ」と同様に用いられる文字で、攻撃でもなく防御でもない魔法の発動に使われたものらしかった。
しかし、いつの時代からか使われることがなくなり、現在の術士には目に触れることすらなくなっている。
「ゼエウ」とは、「空(くう)」を表す古代の魔法文字だった。
「わたしの魔法はいつもぼんやりしたイメージで、どんな文字を置いているか、自分でもよく分からなかった。
だけど、わたしは『ドゥアラ』も『ロローワ』も使ったことがないんだわ。
いつもこの文字、『ゼエウ』だったの!!」
ザンダは幼少の頃から魔法や文字に関心があり、自分の発動の時にもはっきりと意識して文字を配置していたため、この時ばかりは、今までフィヲの話で心打たれていたことなど忘れてしまって、ただ驚嘆して彼女の言葉を繰り返していた。