The story of "LIFE"

第 04 章「開戦」
第 01 節「憎悪の対立」

第 08 話
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フィヲは、この年で16歳になる少女らしい、ある種の“罪のない秘密”を作りたがるようにして、弟的存在のザンダを連れ出していた。

巡査隊本部の外は警戒体制が敷かれているため、彼女は建物内の、さほど奥まった場所でもなく、誰かに聞かれる心配もない場所を見つけて、そこにまだ幼い話し相手を座らせていた。
そしていかにも無邪気な楽しそうな様子で、自分も少年の横に腰を下ろしていた。

「どう?
どこか具合が悪くはない??」
「うん、・・・だけどまだ、魔法を使うのはこわいよ。
両手がバチバチするような感じなんだ・・・。」

外で巡査隊員の掛け声が響く。

「わたしもね、おととい初めて、『キュキュラ』の発動を起こしたの・・・。
おばあちゃんを守らなくちゃ、って思って、とっさに魔法を使ったのだけど、その時の気持ちが勝手に、そのまま魔法になって広がっていったような、無意識の出来事。
――それに、後のことは覚えていないのよ。
ふわ~って、力が抜けて、倒れてしまったらしくて。」

少年は、出会った頃から姉のように慕っている、この少女のことがとても好きだった。
自分にもっと力があれば、彼女のことを守ってやれるのに。
しかし12歳の彼はまだ、誰を守るということもできなかった。

「ザンダを迎えに行った夜、帰りの馬車が黒いローブの人たちに襲われて、おばあちゃんとドガァが戦ってくれたんだけど、わたしは、・・・まるで夢の中で声を出そうと思っても出せないみたいに、魔法を起こそうと思っても、何も起こらない。
もう魔法が使えなくなったんじゃないかと思ったわ。」

周囲に誰かがいたなら、この少女をしてこれほどまでに話させることはなかったにちがいない。
誰を意識する必要もない、今この時だけここに現れた“不思議な場所”は、少年にとってはいつまでも忘れることのできない思い出の一つとなるだろう。
そして少女にとっては、――これは時に寂しいことでもあるが――過ぎ行く日常の一コマであって、別段記憶に残るような出来事でもないのである。
人目を意識することのない、少女の自然な振る舞いは、触れる者の心に限りなく優しい思いを育んでいくものだ。
本人の自覚を伴うことはせずに。

手振りを交えて話す彼女は、いつも楽しそうだった。
そんな中、魔法が発動できなくなったと語る表情は、快活さの内にも悲しみを湛えているようだった。

ザンダはフィヲのそうした表情に触れて、自分も悲しくてしかたがなくなった。
少年の心にいつまでも残る、喜びや楽しさと、悲しみの思いを次々に起こさせながら、彼女の話は思いに任せて続いていく。

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