The story of "LIFE"

第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」

第 12 話
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モアブルグの空気は張り詰めていた。

天候も相変わらず薄曇りで寒く、家々には戸締りがされていて、出歩く人の姿はない。

ただ、いつになく重装の巡査隊員たちが各所に配されているため、――彼らの性質がそうさせているのだろうか――、ものものしいというよりは、どこか頼もしさが感じられた。

古屋敷の付近まで偵察に行ったソマとヤエには、護衛をつけてくれた。
なるほど、いつもならせかせかと出入りしている黒ローブの一団だが、今はしんと静まり返った屋敷の中から、おもての様子をうかがっているらしい。

「こんなに緊張してしまうと、危険だわ。
一触即発という感じじゃない。」
「確かに。
元より話し合いを嫌う人々ですからね。
町の人の不安を拭(ぬぐ)うにも、どう対処したものかしら・・・。」

「そうだ、ヤエさん!
この状況を打開するには、たぶん・・・!!」

二人は護衛とともに町へ引き返し、巡査隊本部で待機しているゴーツらと合流した。

ソマが思いついたのは、「フェイント」である。

もし巡査隊が開門を迫って近寄れば、必ず衝突になってしまうだろう。
しかし、実際に攻撃を仕掛けるのではなく、“現象”としての魔法を発動させるのはどうか。

前日に彼女たちが怪人ラモーに見つかって逃げるはめになったのも、黒ローブの術士たちが“現象”の変化に敏感だったからである。
それはすなわち、彼等の過剰な自己保身に由来するものだろう。

他者の生命をいかに奪うか、そのことばかりを研究してきた一団だが、火災時のザベラムを見て明らかなように、自分の身の危険を省みることは、全く狂躁(きょうそう)的というほかない。

ソマが古屋敷の一帯でドゥレタを使えば、中の術士たちにしてみれば、巡査隊が攻めてきたと思うにちがいない。
その時、彼等がまず案ずるのは、おそらく我が身のことである。

もしも包囲していれば、逃げ道を開くため、死に物狂いになって襲いかかってくるだろう。
しかしこちらの目的は、モアブルグの人々の不安を取り除く所にあり、今回はこの屋敷から彼等を追い払えればよい。

元々、黒ローブの一団が勝手に占拠してしまった建物でもある。
中には魔法に関するたくさんの書物があり、このレボーヌ=ソォラが魔法文化発祥の地であることを考えれば、当然“LIFE”の文献が眠っていることも想像される。

「問題は、その後ですね。
彼等が逃げる場所は決まっている。
テビマワでしょう。
あそこに悪魔結社マーラの新拠点ができつつあります。
ここから追い出したとして、一ヶ所(城塞テビマワ)に閉じ込めておけるのも、どれくらいの時間であるか分かりません。」

巡査隊の代表者であるゴーツはモアブルグのことだけでなく国の将来を案じていた。


ルヴォンとの話し合いを求めていったタフツァとザンダも、同じ点で頭を悩ませていた。

第二隊としては、テビマワを攻め落とすつもりだと言う。
確かに軍隊である以上、その他の結論は出て来にくいかもしれない。

しかしながら、魔法都市国家レボーヌ=ソォラは、究極の発動法である“LIFE”の実現を願わないのだろうか。
主義主張が違うとはいえ、この世に生きる人間の声を抹殺し続けて、新しい未来など開けるわけがない。
いつまでも同じ争いの繰り返しである。

『所詮はそれが人間であって、血で血を洗う争いは、終わることなどないのだ。』

――シェブロン博士やタフツァたちによる、“生命尊重”の呼び掛けに対する、世界の声ともいうべきものは、未だ一様にしてこう呟いているのだった。

ほとんど諦めるような、溜め息混じりの声で・・・。

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