第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」
この昼過ぎの会議までには、早くもザベラムの地下施設の情報がもたらされていた。
調査にあたっているのはアミュ=ロヴァの内衛士団の第三隊で、第二隊の司隊(隊長)であるルヴォンに使いを送ってきていた。
中に誰もいなかったこと、失敗作の合成獣だけが残されていたことは、すでに述べた通りである。
内衛士団は5つの隊から成り、それぞれ42名で編成されている。
剣戟戦を主とした部隊に、1名だけ高位の魔法使いが「参謀」として加わっていた。
この軍組織では隊長を「司隊」と呼び、武器の扱いに秀でるだけではなく、四属性魔法をも使いこなせる者が選ばれている。
その他40名の兵も四属性の術士から10名ずつが選抜されており、必要に応じて隊ごとに五芒星の方陣を形成できるようになっていた。
また、予備軍として常に100名が召集されていて、欠員が出た場合のため、訓練を受けている。
これを「都兵」と呼んだ。
モアブルグの巡査隊の代表であるゴーツは、町の安全のためにも湖畔の屋敷を押さえておきたいと意を述べた。
LIFEもこれを助けることになった。
そしてルヴォン率いる第二隊は、「テビマワの駅町」に突如出現したという、「城塞」を攻めることになった。
参謀を務めるのは、古都アミュ=ロヴァの高名な魔法使いで、名誉職的に任じられている「ギュバ導師」という人物であったが、彼と士卒がまだ到着していないという。
このため、「城塞テビマワ」への進攻は、おそらく明日になるだろう。
散会後、ルヴォンが退出してからも、ゴーツは席に残って、一行と具体的な打ち合わせを続けた。
そこへ、ザンダたちが入ってきた。
「あら、もう大丈夫なの?」
「へへ、ちょっと起きようと思って。
・・・なんかさ、あのヒゲ、やな感じだったな。」
「心配なのは、テビマワの術士たちだ。
あの様子では、ルヴォン司隊は“LIFE”の思想を持ってはいないのだろう。
どんなに黒ローブが危険だといっても、殺傷し合う戦いには断固、反対しなければ・・・。」
その点、モアブルグの巡査隊は人道的な組織であって、「軍」という印象が薄い。
元々、アミュ=ロヴァが主導して魔法都市国家レボーヌ=ソォラの防衛軍とも言うべき「内衛士団」を結成した折に、その「枝隊」として作られた組織ではある。
しかし、アミュ=ロヴァに比べてモアブルグは温厚な人々が多いことと、町がさほど大きくないこと、権力が絡んでいないことなどの事情で、今ではほとんど別の組織となりつつある。
もちろん国全体に関わる大きな戦闘が起こったならば、巡査隊も「枝隊」として駆り出されるだろう。
だが今回のケースでさえ、まだ「共同作戦」であるに過ぎない。
部屋には、LIFEの全員が集まってきていた。
話し合いが続いている。
モアブルグ湖畔の古屋敷としてみれば、火災の難を受けなかっただけでなく、ザベラムから逃げ込んできた術士がいることを加味しても、万全な状態といえるだろう。
そこへ巡査隊と連携して攻め入るためには、できる限り情報を集めておかなければなるまい。
とともに、タフツァはもう一度、作戦を抜きにしてルヴォンと話し合う必要を感じた。
黒ローブの一団といえども、絶対に殺戮してはならない。
なぜならば、思想を異にする人々を、分かり合えないからと言って抹殺してしまえば、その間には永久に消えない“断絶”が残ってしまうからである。
人間である以上、今はたとえ社会悪に荷担している集団であっても、いつの日か改善されるという可能性を信じ続けて、働きかけていくべきだ。
“生命”が持つ“因と果の性質”は、“何に縁するか”によって、如何(いか)ようにも変わり得る。
ならば、万象の中に、“悪縁”と“善縁”とを正しく分別して、悪縁に紛動されぬ自己、および善縁を受け入れられる自己を築くということが、現実に可能なのである。
また、自己や他者の生命に根強い悪癖を知って改善すること、及び人間自体が持つ普遍的な弱点を知って自他ともに克服するということが可能なのだ。
夜通しの看護だったヴェサとフィヲを宿で休ませておいて、ソマとヤエは情報収集、そして内衛士団・第二隊の本営を訪ねるタフツァに、ザンダもついていくという。
少し体を動かしたいらしい。
それならば、敵方と遭遇する危険のない、話し合いの場に同行させようと、タフツァも許可した。