第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」
火災のザベラム救命から、朝方になってモアブルグの宿へ戻ったタフツァは、ソマやヤエよりも早く、昼前に目を覚ました。
彼は、ザンダの容態を見るため、老婆ヴェサの部屋を訪ねた。
ヴェサとフィヲは交代で休みながら、夜通しでこの幼い少年の看護にあたっていたが、タフツァが来た時には二人とも起きていた。
ザンダの様子に、変化が出てきているという。
「体力が回復しつつあるようだ。
ただ、今まで通りに、順方向の発動ができるかどうか・・・。」
死滅の古代魔法グルガの力によって縫い込まれた、あの黒いローブと同じように、ザベラムは、いわば町全体が「逆方向の魔法場(ば)」となっている。
そのことは、タフツァも足を踏み入れた時から感じ取っていた。
土地と、そこに住む人間との関係は、決して切り離せない。
土地が似通った人間を集めもすれば生みもするだろうし、善くも悪くも人間が土地を変え得るということも、また言えるだろう。
タフツァがザンダの額に触れようとしたとき、少年は突然の叫び声を上げて飛び起きた。
「ケ、ケプカスさん、助けてッ!」
「ザンダ、落ちつくんだよ。
ケプカスがどうかしたって?」
「悪魔が!
追いかけて来て、――ドガァは!?
あいつ、まさかやられちゃったんじゃあ・・・?」
部屋の外に出ていたドガァは、タフツァが閉めずにいた戸の隙間から入ってきた。
ザンダは急に安心したらしく、肩をおろして、再び横になった。
「何も言わずに、あんな危ない所へ行くなんて・・・!
せめて、私にだけでも言ってくれればよかったのに・・・!!」
「おねえちゃん、おれが悪かったよ・・・。
ケプカスって人、最初は親切そうにして、おれとドガァに、・・・あの恐ろしい怪物をけしかけたんだ。」
しばらく動悸が収まらなかった。
「もう大丈夫だよ。
ザンダ、どこか具合の悪いところはないか?」
「のどが、渇いたな・・・。
タフツァさん、おれ、もうしないよ。
まっぴらだ、グルガの魔法も、悪魔も、ケプカスも!
絶対、やっつけてやるから。」
「意識はしっかりしているようだ。
・・・とはいえ、まだ後遺症が出るかもしれない。
魔法を使うのは、当分やめておきな。」
少年が思いの外(ほか)元気な様子を見せたので、ヴェサもフィヲも安心していた。
しかし、リーダーのタフツァは、ザンダの幼さゆえの極端さを心配している。
ケプカス一派が敵と分かったからには、どのような手を使ってでも倒す――つまり生命を奪うことも辞さない――という、この少年に固有の戦闘的本能を、何か別の方向へと転じてやらねばなるまい。