第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」
黒ローブの術士たちは、ザベラムから離散してしまっている。
怪鳥ヱイユの真っ黒い翼に覆われた時、すでにザベラムから逃げ出す人々もいた。
その多くは、古都アミュ=ロヴァに近い「テビマワ」という集落へ向かったのであるが、火災が起こるまでは自宅へ引き返して荷車を作るなど、家財の連れ出しに余念がなかった。
そして「火が出た」と聞くや、大慌てで我先にと脱出を図った。
また途中、喧嘩をする者が後を絶たず、道路は混雑して、避難を遅れさせていた。
他方で、火事と聞いても真に受けず、実際に火を見てから逃げようとして遅れた人々が、モアブルグの隊員やタフツァたちに救出されることになった。
しかし鎮火後、彼らは家財を全焼してしまったことへの恨みを、命の恩人である隊員たちにぶつけていた。
魔法を放って実際に攻撃する者まであった。
話を進めるために、ここで「交易ルート」について述べたい。
現在の舞台となっているマーゼリア大陸は、アルファベットの「Z」を左右に反転させたような形をしている。
このルートは、国家を形成している最北端の地である魔法都市国家レボ-ヌ=ソォラに始まり、一つは同国の南へ突き出た半島から海路、港町フスカ(第一章第二節)へと通じる。
今回の旅で、タフツァのパーティがとった経路がそれである。
そしてもう一つは、レボ-ヌ=ソォラから内陸を通って港町フスカへ出る道だった。
しかし、ザベラムが治安の及ばない地域として一般的な物品を扱う交易商人たちから避けられるようになったため、近年は2種類の交易ルートからも外され、モアブルグと古都アミュ=ロヴァを直接行き来されるようになっている。
ただ、前節で登場した商人のように、珍獣を捕らえて売買するような者にとっては、闇の都市ザベラムを市場(しじょう)から外すわけにはいかなかっただろう。
つまり、今でこそ直接結ばれているアミュ=ロヴァとモアブルグだが、少し前までその間には「テビマワの駅町」と「闇の都市ザベラム」があって、北に少し迂回するような形になっていた。
断交後、黒ローブの巣窟であるザベラムは人口が増えていったのに対して、テビマワは急激に衰え、今や寒村になってしまっている。
ザベラムの焼失を機に、「悪魔結社マーラ」の術士たちを捕縛しようと動き始めたアミュ=ロヴァ・モアブルグの両都市は、彼らが二ヶ所に分かれて潜伏していることを突き止めていた。
まずモアブルグ外れの、森の湖畔に佇む古屋敷。
それに加えて、寒村テビマワにもマーラのアジトができつつあるという。
火災の翌日、早くも古都アミュ=ロヴァは派兵し、ザベラムの地下施設の取り調べを行なった。
この時すでに魔具職人ハイボンとケプカスの姿はなく、悪魔「モルパイェ=フューズ」及び、未だ姿は見せないが完成したと伝えられる、もう一体の悪魔の手掛かりもなかった。
残されていたのは、失敗作と思われる奇形動物や合成獣、あるいはその死骸だけだった。