第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」
ザベラムの町は、巡査隊やタフツァたちの尽力にもかかわらず、全焼してしまった。
救出された男たちも、隊員による命懸けの活動を口汚く罵ったばかりでなく、徒党を組んで攻め寄せると暴言まで浴びせたのである。
火は、町の外へ燃え広がる前に、河川から引かれた水によって鎮まった。
朝になって、巡査隊とともにモアブルグへ戻った3人は、炎で焦がしてしまった衣服を着替えて装備を整え、ひとまず休息することにした。
一方、夜のうちに宿へ帰っていたヴェサとフィヲは、ザンダの容態を見ながら、ドガァに治療を施して、交代で休んでいた。
ドガァの回復は早かったが、ザンダは依然として目を醒まさない。
時々、悪魔の名前を叫ぶなど、夢にうなされていた。
昨日の恐ろしい現実が、まだ続いているのである。
町の巡査隊の方では、こちらも交代制で組織された一団であるため、ザベラムの救命にあたった人々と、昨夜のモアブルグの警備にあたった人々が休み、それ以外が各所に配されて、警戒体制を布いていた。
古都アミュ=ロヴァと連携して「悪魔結社マーラ」の拠点を包囲し、術士を捕縛するつもりだった。
ザンダの容態について、老婆ヴェサは楽観していた。
しかし、何らかの後遺症が出るであろうことは思案している。
これに対してフィヲは、夜も眠れぬほどに不安がり、少しやつれてしまっていた。
「昨日、あの小悪党(奇術士ヨンドのこと)を相手に、『キュキュラ(総力による発動)』を使っているんだ。
無理をすると、お前まで体をこわすよ。」
仲間がこれほどの重症(彼女にはそう思われた)を負ったことなど、経験の浅いフィヲにとっては、初めてのことだった。
幾つもの危険を越えてきた年長の術士たちならまだともかく、いつも心配して気にかけている、弟のような存在であるザンダが、何時間もうなされたまま、目を覚まさないのだ。
大人と呼ぶには尚早の彼女は、ほとんど泣き出さぬばかりの心持ちであった。
確かに、ヴェサの言う通りフィヲの体力は低下している。
ゆうべソマたちと別れてモアブルグへ向かう帰途、火災でザベラムから逃げてきた黒ローブの術士5名ほどと遭遇して、軽い戦闘になった。
魔力を使い果たしたまま休んでいないフィヲは、一時的に魔法が発動できなくなっていたため、常備の長い杖を構えながら身を守るのが精一杯で、実際に戦闘に立ったのはヴェサと、負傷したドガァである。
それでも、元来が臆病な黒ローブの散衆だけに、難なく撃退できた。
むしろ森の魔物の方に手を焼かされたくらいだった。
行き(ザンダとドガァがザベラムに向かった時)にはドガァを恐れていた魔獣たちも、「痛手を被った今なら、ライオンを倒せる」と、躍起になって襲いかかってきたからだ。