The story of "LIFE"

第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 03 節「思想戦」

第 02 話
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闇の都市ザベラムでは、悪魔「モルパイェ=フューズ」の暴走があったあの晩、大火が起こった。
火は、廃材置き場から出たらしかった。

ところが、ザベラムの人々は誰も消火活動にあたる者がなく、業火は際限もなく燃え広がるかに思えた。

もとよりこの町には危険な術士が多く、交易ルートからも外れていたので、モアブルグの「巡査隊」の到着は遅れて、町の半数以上が焼けてしまった。

古代魔法学者ケプカスを負かしたタフツァは、ここ数日来「悪魔誕生」で賑わったザベラムの人々から恨みを買い、ドガァや戦闘不能状態のザンダと共に絶体絶命の所を、真っ黒な怪鳥――すなわちヱイユ――に救われて、頃合を見てモアブルグへ奔(はし)った。

その途中、馬車でやってきたソマやヤエ、ヴェサ、そしてフィヲと合流することになった。

「ザンダ!」
「すまない、僕がもう少し早く着いていれば、あんな危険に遭わせることはなかったのに・・・。」
「あんたは敵の親玉を相手によく戦った。
だが見てごらん、このローブは、グルガの術士どもが着ているのと、同じものだ。
ほら、脱がせるから、手伝うんだよ。」

黒いローブは所々炎で焦げて破れていたが、フィヲとヴェサが二人で脱がせるのも手間取った。
まるで、必死に体にまとわりついているかのようだった。

ローブを御者のナイフで裂いてザンダを助け出したが、その顔は青ざめ、額には汗が滲んで、ひどくうなされていた。

「まだいたずらっ気が抜けていないとはいえ、この子も“LIFE”の術士として育ってきている。
黒いローブは、“LIFE”とは正反対の、悪魔の力で縫い込まれているんだ。
グルガの術士が身につければ力を増すかもしれないが、ザンダの幼い体には、反発が強過ぎる。」

ヴェサは、術士たちが魔法の威力を強めるために使う、順方向(=正並び)の「魔法陣」を馬車の荷台に敷くと、そこへザンダを寝かせるよう指示した。
ローブに染み付いていた逆方向(=負並び)のエネルギーの流れのせいで疲弊した少年の体を、よく慣れた順方向の流れに戻すためである。

若い術士たちは、このような「魔法陣」の使い方もあるのかと、改めて老練のヴェサから学んでいた。

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