第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」
「逃がしはしないぞ・・・。
ふっふっふ。」
幾多の魔獣が道を阻む中を、ドガァは力強く駆け抜けていった。
大抵のものならば、その咆哮を浴びて逃げていったが、巨大な相手と交戦している暇はない。
誇りも高く若き獅子は、ザンダを振り落とさぬよう注意しながら、一つまた一つと活路を切り開いた。
だが、どんなに速く走っても、すぐ後ろには、ケプカスがフワフワと追い掛けてきているように感じられた。
出口にさしかかった。
廃材置き場の空き地である。
ドガァは、敵との間合いを一気に離すつもりでいた。
その時、ケプカスの手が、ドガァの尾に掴みかかった。
さっきまでの曇天は暗雲に変わり、遠雷が不気味に鳴り渡っていた。
「『ライオン』め!
我が一族によって絶滅したと思っていたぞ。
お前が最後の生き残りだな・・・!!
生かしては帰さぬ!!!」
辺りはたちまち、「霧」に覆われたような空間へと変わってしまった。
ケプカスの結界である。
いかにドガァの力といえども、抜け出すことはできなかった。
そして目の前に、ひどく歪んだ、おぞましい魔法陣が姿を現してきた。
ケプカスが「モルパイェ=フューズ」を召喚したのである。
力を解放された「悪魔」は、結界をも破りかねない凶暴なる力を以って、付近に散乱していた廃材を滅茶苦茶にしてしまった。
けれども、ドガァはさすがに獅子である。
相手の動作の済んだタイミングを逃さず、百獣を屈伏させるという、王者の咆哮を轟かす。
これにはケプカスの「ロニネ」も揺らぎ、「悪魔」でさえ怯んだ。
そしてすかさず、天の雷(いかずち)ほどの勢いで、ドガァが魔獣の喉笛に食らいついた。
「神」を自負するプライドは恐ろしい。
ドガァの反撃に対して、突然、「モルパイェ=フューズ」は激昂した。
烈火の怒りが高電圧の暴走を伴って、異常なほどの破壊現象を引き起こす。
空気の流れまでが変節を来し、何層にも分かれた風の衝撃波が、ドガァとザンダを結界ごと吹き飛ばしてしまった。
「さあ、もっと追え!
殺すまでやめるなよ!!」
しかしこの時、「モルパイェ=フューズ」が地に倒れ、そのまま苦しそうにもがき始めた。
ザベラムの町中が、「悪魔」の絶叫に震撼していた。
「お前がケプカスか。
・・・僕も術士だ。
一対一で手合わせを願いたい。」
醜くもがいていた馬の怪物は、魔法陣とともに消えてしまった。
後ろから「ゾー」を使ったのは、商人の装いを解いたタフツァだった。