The story of "LIFE"

第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」

第 13 話
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この日ソマとヤエは、会う人ごとに声をかけ、文献やケプカス一派の手掛かりとなる情報を求めていたが、「黒ローブの一団を何とかしてほしい」等々、苦情ばかりを聞かされて、大した収穫も得られずにいた。

そして何度かタフツァとすれ違う中、夜の会議では話に上らなかった「湖畔の屋敷」――前日に彼が町の者から入手した――の情報を聞き出していた。

「ほんと、タフツァはぬけているところがあるのよね。
まずそこへ行くべきだったじゃないの。」
「会議は他の話題が多かったですからね。
私もあの屋敷のことは気にかかっていましたが、黒ローブの術士たちが頻繁に出入りしているため、安易に近付くのは避けていたのです。
けれど、ソマさんも様子を知っていたほうがいいでしょう。
・・・少し探りを入れておいて、今夜の会議で皆さんに報告する程度に。」

彼女たちは、フィヲやヴェサがいる南西の森にやや近い、ザベラム側の西の森へ向かった。
森には、草木を分けるようにして、人が歩けるくらいの道ができており、これに沿って進んだ先には、昔の富豪が拓いて作らせた「屋敷」がある。
この一帯に来ると他の通行人は黒ローブの術士たちばかりで、明らかに目立ってしまうため、二人は「道に迷った旅人」として、遠回りに接近することにした。

「何かしら、森の獣がいるみたい。」
「いいえ、・・・あれは、合成獣だわ。」

行く手を塞いだのは、「一つ目の野犬」の群れだった。
十数匹いるようだ。

「湖畔の屋敷でも生体実験を行なっているのかしら・・・!?
ザベラムの研究施設を、ここにまで広げようとしているのかもしれません。」
「この姿、可哀想に!!
・・・危険だけれど、生きている限り、命を奪うのはやめましょう。
シェブロン先生ならどうされるかしら・・・?」

「あまり派手な魔法は控えてください。
ケプカス一派の中には、空間や現象の変化に敏感な術士がいるのです。」

単眼を大きく見開いた野犬たちは、次々と二人に飛びかかってきた。
これに対して、ヤエは鞘付きの剣で弾き返し、ソマは魔法杖で叩き落とした。

しかし、生命力の旺盛な獣たちは屈することなく、むしろ怒りに狂った勢いで、何度も何度も食いかかってくる。

「痛ッ・・・。」
「いけない、ヤエさん!
この子たち、牙に毒があるみたい・・・!!」

“LIFE”の思想を知識として知ってはいるものの、本来は剣を用いて相手を倒す戦法の持ち主であるヤエには、「命を奪わず」という応戦には無理があったようだ。

一つ、二つと傷を受け、たちまちに群れ全体からの標的にされてしまった。

「ダメッ、去りなさい・・・!!」

ソマが垂直に握った杖の柄で地面を打つと、ドーンという響きとともに、足元から突き上げるような衝撃が起こり、犬たちはとっさに走り去ってしまった。

「ヤエさん、ケガは・・・??」
「すみません。
今までの私なら、斬りつけて命を奪ってしまうところでした。
ソマさんの戦い方を学ばなくては・・・。
実際、彼等は私の“殺意”に対して攻撃してきたのだと思います。」

「両腕にすごい獣傷ができている・・・!
毒の治療法はあるのかしら!?」
「最近は今の野犬の被害が広がっていますので、毒消しが売られているのです。
・・・ほら、これで大丈夫。」
「よかった!
・・・でも私、『ドゥレタ』を使ってしまった・・・。
黒ローブの術士たちに、悟られたかしら?」

まだ周囲の森に人の姿は見えなかった。
しかし、確かに不穏な、緊迫した空気が、彼女たちを包んでいた。

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