第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」
「この、ガキの女め!
オレ様を侮辱したなッ!!」
ヨンドは逆上し、声を裏返して叫んだ。
樹木から奪ったエネルギーを使うつもりらしい。
「何て危ないことするの!
その魔法は、やめなさい!!」
ヨンドは相手を見くびっていたためか、手の内を読まれているような、強い言葉を投げかけられて小心者らしく萎縮し、それでも隠しようのない怒りにまかせて魔法を放った。
両手の平を広げる形の発動である。
「愚かな人!
どうなっても知らないわ!!」
二つの魔法がぶつかり合う。
ヨンドが起した魔法は巨大な「化合爆発」(酸素と水素)で、逆方向魔法陣にフィナモとパティモヌを使ったものである。
対するフィヲは「一点集中型」のクネネフで、ちょうどヨンドが魔法を発動させようとする辺りへと大気の流れを集め、更に相手の発動から時間差的に、急激に空気を圧縮させたかと思うと、そこで意図的なキャンセル(中断)を行った。
「フィヲ、すまない・・・。
一点集中のクネネフに、これだけの力があるとは・・・!!」
発動を終え、その場に座り込むフィヲをヴェサが受けとめた。
そして奇術師ヨンドは魔法諸共(もろとも)吹き飛ばされる形となり、自らが起こした大爆発の直撃を受けてしまった。
「ウギャー!
『フアラ(一点集中型の魔法)』だ、・・・あいつら、『LIFE』の術士じゃねえか!
オレがかなうもんかー!!」
ヴェサに支えられながら気を失っているフィヲは、この上なく安堵した表情で、静かに呼吸している。
「不器用な子だ・・・。
後先考えずに『キュキュラ(総力)』を使うなんて。
・・・だが、そうは言っても、あれほどの爆発を避けるには過不足がなかったか。
確かに危機を脱し、目的を果たしている。
あたしが教えたやり方ではうまくいかなかったが、この子なりの戦い方で勝ったんだ・・・。」
今の応戦でフィヲが使ったのは、「ドファー(変化)」と「クネネフ(風)」だけである。
彼女にとって、今回はそれで十分であった。
しかし、今後はどうであろうか。
ヴェサは、フィヲが年齢のわりに他の熟練の魔法使いと比べても、とっさの「判断力」に優れていることを認識せざるをえなかった。
あるいはフィヲにとって訓練以上に必要なのは、より多くの知識を与えてやることの方なのではないか、と感じていた。
一つ一つ、学びかつ実戦で使い、また学び・・・。
この繰り返しの中にこそ、彼女の術士としての成長が見出せるに違いない。