第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」
ふと見ると、フィヲは「鏡」を取り出して、何やらまわりの景色を映しているらしい。
この仕草からヴェサはあることを思い付いた。
「仕方がないねえ、魔法の応戦とはどういうものなのか、実体験で学んでおくことにしよう。
それを高くかざしてごらん。」
フィヲは「杖」の他に、道具として「鏡」を常に身につけていた。
ヴェサが若い頃愛用していたものを、フィヲに譲ったのである。
この強力な「ロニネ」を張った女性用のハンドミラーは、フィヲのお気に入りでもある。
彼女は普段から自分の姿を映して使うとともに、今までも何度か防具として用いたことがあった。
「・・・そうだ、動くんじゃないよ。」
ここは心を鬼にしよう・・・。
魔法を唱えはじめたヴェサの両手の間に、「可視光」の点が、徐々に強まって輝き始めた。
鮮明な赤色をしているようだ。
「もう少し角度を上に向けて、・・・さあ、放つよ!」
ヴェサの動きはゆっくりと穏やかなものであったが、その両手の間から起った魔法は、まるで稲妻のように速く、フィヲの「鏡」を射貫いたかに見えた。
「キャッ!」
太く赤い光線が「鏡」に当たった衝撃で、フィヲは後ろへ倒れるかと思った。
そこで光は反射され、少女の斜め上へ向かって真っ直ぐに、木々の幹を貫通しながら空へと消えていってしまった。
一瞬、光が木陰を赤く染めたので、フィヲの目にも赤が焼き着いて、なかなかとれないようだ。
「今のは、一体・・・?」
「『レーザー』と呼ばれているものだ。
・・・どうだい、魔法と魔法がぶつかり合う感触は。」
「わたし、自信がないわ・・・。」
二人は付近の倒木に座って、しばらく森の静寂に包まれていた。
しかし、それは背後の草むらを分け歩く人の気配によって、すぐにかき消されてしまった。