第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」
翌朝、宿の一階にある食堂へ降りたLIFEの人々は、まだザンダが来ていないことに気付いた。
それでタフツァが呼びに行くと、部屋は散らかっており、ザンダの姿も、ドガァの姿も見えなかった。
「やっぱりね。
まだ夜が明けないうちに出たんだわ。
・・・さあ、誰が探しに行く?」
「僕が行く。
今は難しい年頃だからと思って、夜じゅう見張ったりはしなかったけれど、こんなことになるなら・・・。」
「いいのよ。
見張っても無駄でしょう。
余計に反発して、危険に飛び込んでいってしまうもの。
・・・今日は私とヤエさんで情報収集するから、タフツァはザンダを探して、フィヲはヴェサさんと特訓よね。」
この日はゆうべからの風がまだ強く、雲行きも怪しげで、夜までには崩れてきそうな天候であった。
「やっぱり、外は寒いわね。」
「レボーヌ=ソォラの冬は、大陸で一番冷え込むからね。」
フィヲとヴェサは町で新しくコートを買って着用し、少し外れの森へと出掛けて行った。
数日前まで降り積もっていた雪が、まだここには所々で残っている。
「お前は、よい資質を持ってはいるものの、実戦経験が浅い。
風の術士として、杖の一振りで竜巻を起こすくらいのことはできるようにしてやりたいところだ。」
「ええ。
でもわたし、威力の割りに消耗が激しいみたいで・・・。
前に教えてもらった、クネネフをいくつも結合する方法で、竜巻を起してみるんだけど、・・・『ストゥラド(威力3)』で発動させても、木の葉が舞う程度なの・・・。
それだけなのにすごく疲れてしまうし。」
「おかしいね。
ちゃんと『ドゥアラ』は使っているかい?」
「あの、それがよく分からないのよ。
『ドゥアラ』の文字だけは、何度書いても忘れてしまって、とっさの判断ではどうしても使えないわ。」
「困ったもんだ。
もう一つの、『ドファー』はどうなんだい?
そういえば、お前が『ドファー』を使ったところなんて、見たことがないね。」
「これも、本を読んだ時には、すごく分かり易い魔法だなって思ったの。
それなのに、実際にはいつ使えばいいのか、頭の中でもさっぱりなのよ・・・。」
今まではただ孫娘のように可愛がり、守ってやるだけの存在であったフィヲだが、いざ戦力として育てていくとなると、これほどまでに難しいものかと、ヴェサは感じていた。
実際、彼女はかつて教え子を持ったことがない。
一度だけ師について学んだこともあるが、常に周囲の者を驚嘆させる独創性によって、ほとんど苦労することはなく、いくつもの戦局を越えてきたのである。
『何か、この娘には特別な力があったように思うが・・・。』
ヴェサにとって、魔法のことで頭を悩ませるのは、ほとんど初めてのことだった。