第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」
外は風が強くなってきたらしく、宿の戸板や窓は叩かれて、ガタン、ガタンと鳴った。
「悪魔との対峙か・・・、一つの行動をとるにも、しっかりとした作戦を立てておかなければ、危険ですね。」
「私も小さい頃、ヱイユくんたちと一緒に、悪魔と戦ったことがあるわ。」
「ヱイユか、・・・あの小僧め、今どこで何をしていることやら。」
LIFEの一行の中で「闘神ヱイユ」を知る者は、シェブロンとソマ、トーハ、ノイ、そしてこのヴェサである。
彼女は以前、負傷したヱイユの命を救ったことがある。
「古都アミュ=ロヴァから来た商人の話によれば、先日『灰竜ヱイユ』の姿を見た者が何人かいる、ということです。
おそらく今、彼はこのレボーヌ=ソォラにいるのでしょう。」
「本当に、ヱイユくんが現れるほどのことが起きているのね・・・。
悪魔たちが、動き始めようとしているんだわ。」
おずおずとフィヲが聞いた。
「あの、ヤエさん・・・。
『悪魔』、・・・って、どんななの・・・?
わたし、どうやって戦えばいいのかしら・・・。」
凶暴な魔物との戦いに経験のないフィヲは、とても不安そうにしていた。
彼女は「クネネフ」と「ドファー」を使うだけで、強力な魔法は持ち合わせていない。
「そうだろう、フィヲの特訓も含めて、作戦を練っていくよ。
・・・まずヤエさんとやら、『黒ローブ』の術士たちや『悪魔』どもについて、詳しく聞かせておくれ。」
「はい。
・・・私が知っているリーダー格の術士は、古代魔法学者『ケプカス』という男です。
今のところ、表立って動いているのはこのケプカスだけですが、実はこの男が召喚魔法『メゼアラム』を使い、2体の悪魔を呼び出してくるのです。」
「すっげえ!
『悪魔』を召喚するのか!!」
「ザンダ、面白半分で臨んではいけないよ。
『悪魔』といっても、元々は害のない動物たちだったんだ。
それを彼等は興味本意で合成し、人殺しの道具にしてきた。
到底、許されることではない。」
今、パーティの責任者を任されているタフツァは、シェブロン博士から特に注意されたこと、すなわち「ザンダの魔法教育」を忘れることはなかった。
一方ザンダの方では、シェブロン博士以外の者から、皆のいるところで注意されるのが気に食わないらしく、決まって反抗的な態度になってしまう。
「なんだい!
おれはおれの勝手だろ。
『悪魔』を呼び出せるなんて、カッコいいじゃんか!」
すると、ザンダの近くで寝ていたライオンのドガァが、シッポでこの少年の背中をたたいたようだ。
ザンダは振り向いてドガァのあたまをポンとたたき返すと、再び皆の方を見て、興奮した調子で言葉を続けた。
「おれは『作戦』なんて知らないよ!
明日になったら、そのケプカスって人に、会いにいくんだ!」
「何を言うんだい!
グルガの術士なんだよ。
ヘタをすれば、生命(いのち)を奪われるか、奴等に利用されないとも限らない。」
「そうよザンダ。
危ないから、わたしと一緒に、魔法のお勉強をしていましょう。」
皆、反対していたが、ただソマだけは、むしろ可笑しそうにして、大した心配もしていなかった。
「いいじゃない。
行っていらっしゃいよ。
自分の目で見ておくのは大事だわ。
でも確かに危険だから、ドガァと一緒に行ったらどう?」