The story of "LIFE"

第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 02 節「文献探し」

第 01 話
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舞台は大陸の北・レボーヌ=ソォラ。
「魔法都市国家」として古くから栄えたこの地に、今、どこよりも早い冬が訪れていた。

「『キュキュラ』で失われるエネルギーが、仮に術士に残った体力の九十九パーセントだとしよう。
すると、使っても使っても体力がゼロにはならないことになる。
これだと、何だかおかしくないか?」
「ああ。
体力が『一』を遥かに下回ると、大体は死んでしまうらしいよ。」

するともう一人がひらめいたように言った。

「いや、待て。
体力が仮に『一万』もある術士がいたとしよう。
そいつが一回『キュキュラ』で魔法を放つと、残りは『百』だよな?
まだもう一回、使えるわけだろ?」
「本当だ・・・!
だとすれば、威力は一体、どうなるんだ?」
「問題はそこなんだ。
これを次の研究課題にしよう。」

しんしんと雪が降り積る中、「モアブルグの町」では学者たちが忙(せわ)しなく家々を出入りしていた。
レボ―ヌ=ソォラの魔法使いや研究者たちは、あまり生活を省みることもなく、研究に没頭して毎日を暮しているのだった。

「おれは見たんだ!
西の都ザベラムには、恐ろしい術士がいる。
魔法使いどうし、一対一で応戦をしている場面だった。
片一方の奴が目の前の宙に魔法陣を起こして、魔法を発動しようとしたんだ。
そうしたら相手の奴がよう、敵の魔法陣を利用して、『逆方向』の魔法を放って見せたんだ!!
即座に勝負が決まってしまった。
あれは恐ろしい光景だったよ・・・。」

皆、興味津々といった様子で語り込んでいる。

「こっちもすごいぜ。
お前、魔法の『相殺』を知っているだろう?
相手の放った魔法を完全に打ち消すには、『対』の魔法を起こすか、あるいは『逆方向魔法陣』に同じ魔法を込めて発動すればいいんだ。
こうやって、もし相手の力に超過するほどの『逆方向魔法』を出したとすれば、相手の魔法を打ち消すだけじゃなく、残ったエネルギーをぶつけることだってできる。
他にも、相手と全く同じ魔法を、ずっと強い威力で発動して、エネルギーごと取り込んでしまう方法もある。
しかしだ!
わたしが見たのはそんなものじゃない。
一般に、魔法の反射には『ロニネ』を使うが、これは『トゥウィフ』を混ぜて使われただけで、すぐに吹き飛んでしまう。
にもかかわらず、複雑な合体魔法を、自分は消耗もせずに跳ね返してしまう奴がいるんだ。」

学者たちが前のめりになり、話題は熱を帯びてきた。

「前にどこかで読んだことがあるぞ。
本来、魔法は自然の要素を支配する力のことを言う。
一つ一つの魔法を極めた術士には、相手が放った力さえ、コントロールできてしまうのだそうだ。
魔法の『使い方』それ自体とは、また少し違った資質だと考えたほうがいい。
更にもう一つ。
魔法は使う者の『意思』や『目的』によっても、作用のしかたとか表れる形が異なってくるらしい・・・。」

男が話し終わろうとした直後、突然音もなく戸を開けて、外から黒いローブの魔法使いたちが侵入してきた。

「貴様、その話、どこで知った?」
「出所となる書物をよこせば、命だけは助けてやろう。」
「な、何だ!?
お前たちは一体・・・??」
「抵抗するなよ。
生きられなくなるぞ。」

先刻までとは打って変わって、室内は緊迫した雰囲気に包まれていった。
しかし、最後の侵入者がそっと戸を閉めようとしたその時、魔導着を身にまとった老婆と、まだ幼い少年が、つかつかと部屋の中央まで立ち入ってきた。

「小僧どもめ。
うわさ通り、貧弱な術士揃いのようだな。
得意の『グルガ』とやら、一つ見せてもらおうじゃないか。」

黒ローブの術士たち五人は、皆武装した若い男ばかりであったが、この老婆の姿を見、話し声を聞くと、即座に武器を捨て、狼狽して、中には取り乱して泣き出す者もいた。

この時、開いたままの扉から、少しあわてて少女が入ってきた。

「おばあちゃん!
こんなところにいたのね。
・・・あら、ザンダも。
宿が見つかったから、早く行こうよ!!」

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