第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 01 節「ヱイユ」
アーダは電光の高さを味方につけている。
その一帯だけ、ガルーダを取り巻く大気の流れから逆らうようにして、別の風の流れを形成していた。
「さあ、共鳴させよう!」
下方のヱイユが合図を送り、上方のアーダがそれに応える。
彼らは同時に魔法を発動させていた。
突如、怪鳥を挟み込む形で、二つの球状衝撃波が広がった。
雨と風とは急速に向きを変え、球と球の接点の位置にあたるガルーダの両翼を劈(つんざ)く。
絶叫が鳴り響いて、風は一斉に止んでしまった。
これほどの魔法を起こしてもなお、両の術士は無傷である。
次々とぶつかる波形は互いに相殺(そうさい)し合い、標的だけを懲らしめたのだった。
「多少のダメージは覚悟してもらうぞ。」
一瞬の静寂の中、不意に天を指差したヱイユの「テダン」が天地を揺るがす。
しかしこれはフェイントで、実弾はアーダの急襲である。
体長比で言えば「鴉と蛾」ほども違いがありながら、怪鳥は全く抵抗できないまま、山肌まで叩きつけられて、更には羽毛が凍りついてしまった。
ドラゴンの翼で起こした「クネネフ」と攻撃型の「ロニネ」、そして喉に宿る「ザイア」の合体魔法が、標的を包み込んだまま、上空からの勢いに倍加された形で、地面へと炸裂したのである。
「では、干からびてもらおうか。」
戦闘不能状態の敵に、なおヱイユは攻撃をしかけた。
大地にエネルギーを吸わせる「テティムル」だ。
みるみるうちにガルーダの体躯は縮まって、辺りの広大な土地を潤していった。
「エネルギーというものは、あまり一つ所へと集中するべきではない。
本来、皆で共有するものだ。
そして、お前の力もまた、民のために使わせてもらうとしよう。」
「メぜアラム」の魔法陣が浮かんで、消えていった。
ようやく、この日の目的が果たされたのである。